後味の悪い依頼完了
「ふざけるな。そんなことが許されると…」
「まず、私の依頼主はリュート様です。貴殿方ではありませんのでこの依頼について、何か言う権利はありません。」
「何と不遜な。リュート様。」
「それにもし『竜珠』が欲しかったのならば、依頼文にそう明記しておくべきだった筈です。それをしないで手に入ったら、金を払うからよこせなんて図々しくないですか?私を信頼してなかったってことでしょう?」
メイリーはリュートの依頼に対して文句も言わず、しかも報酬の話も事前にしなかったため、護衛2名はすっかりメイリーのことを軽く見ていた。そのため依頼をする立場であるのに完全に上からモノを言ってしまった。別にメイリーとしてはそれはどうでもいいのだが、こう言う関係性になってしまうと都合の良い便利屋のようにこき使われる可能性があるので、早めに修正しておく必要があるのだった。
「貴様のような輩を真に信頼できるはずがなかろう。」
「そうだ。貴様はただ、『竜珠』をこちらに差し出せばいいのだ。」
護衛2名もメイリーのような少女に侮られてはたまらないと、ヒートアップしてしまう。すると、
「カンタン、ライナー。それくらいにしてください。僕たちの依頼は確かに『宝珠』でした。それを『竜珠』をよこせなど、どう考えてもこちら側が悪いですよ。」
リュートが2人を諌める。一応、黙り込む2人だが、メイリーを怒気を含む眼で見つめてくるのは健在である。
「すいませんメイリーさん。それで『竜珠』はどうしてもいただけないということでしょうか?」
「ええ。今回の依頼に関係が無いので。」
「そうですか。残念ですがしょうがないですね。それでは『宝珠』についてですけど報酬はこれでよろしいですか?」
切り替えたリュートは金貨の入ったら袋を渡してくる。いちいち数えるのが面倒なメイリーは空間把握と『鑑定眼』を利用して金貨の枚数を瞬時に把握する。
「金貨200枚ですか。相場よりも安い気がしますが、まあいいでしょう。そこまでの依頼ではありませんし。」
「数えてないのに何故、と言うか200枚ですか?今回の報酬額は確か相場より少し高めの400枚を用意していた筈ですが、カンタン、ライナー?」
『宝珠』は別に誰しもが欲しがる品ではないため、そこまでの値は付かないが、それでも迷宮主からのドロップアイテムだ。相場は350~400枚程度である。メイリーがどのように金貨の枚数を知ったのかわからないが、本来渡す予定であった金額よりも減っていることを考えると、誰かが何かをしたのだろうことはリュートにも理解できる。
「リュート様、騙されないで下さい。あんなもの出任せに決まってます。」
「そうです。あんな瞬時に数えられる訳がありません。」
「それならメイリーさんには悪いですが、金貨を数えて、」
「それはなりません、奴は空間魔法を使える様子。おそらく金貨を更にせしめようとしているに違いありません。」
メイリーとしては護衛のつまらないプライドな付き合う暇は無いので帰ることにした。
(どうせ付き合っていると最終的に「我々を騙した慰謝料に『竜珠』をよこせ」とか言ってくるだろ。)
「面倒なので私は帰らさせていただきます。ああ、テイル様。これを。」
「手紙か?」
「はい。後でお読みください。それでは。」
「ま、まて。貴様。」
護衛たちの制止の声を無視してメイリーは、店を後にするのだった。




