依頼の決裂
久し振りに王都の冒険者組合に訪れたメイリーを見るなり、レレナが焦った表情で声をかけてくる。
「ひ、久し振りですねメイリーさん。2ヶ月ぶりくらいですか?」
「どうも。」
「今、この組合は依頼超過の状態でして、メイリーさんにも依頼を消化するのに協力して頂きたいのですが。」
「はぁ。まあ今日は依頼を受けるつもりはないので、明日からになりますが。」
今日の夜にリュートたちとの約束を控えているため、今日は買い物などをして過ごす予定のメイリー。その言葉にガックリしながら気を取り直す、
「残念ですがしょうがないですね。何でも皆さん、クリーア領の『宝竜の迷宮』に行っているようで、まあ冒険者さんたちが何処に拠点を移しても自由意思なのでどうしようもありませんですけどね。ああ、そう言えば初心者迷宮の件が先日の会議にて漸く決定いたしました。」
次いでとばかりにメイリーがこの組合に暫く近寄らなかった原因の話題になる。
「初心者迷宮は隠しルートを解放しつつ、隠しルートから魔獣が出てこないように結界で封じることで、初心者も中級者も利用できる迷宮にすることが決定しました。本来なら予算の関係でこういった処置をとることは稀なんですけどな。」
「はぁ。そうですか。」
メイリーとしてはそんな裏話知ったことではないので、反応も薄くなる。
「それでメイリーさんには報酬として金貨100枚とランクアップがなされることに決定しました。おめでとうございます。」
「お金は兎も角、ランクアップですか。これで私も晴れてAランクと言うことですか。」
「へっ?えーと、メイリーさんは現在Cランクですよね。なので今回のランクアップでBランクに昇格と言うことですよ。」
「はぁ。いえ、今の私はBランクですよ。ほら。」
クリーア領の冒険者組合で迷宮の素材を卸していたら、素材採取系の依頼を何個も達成したことになっていたメイリーは、図らずもランクアップしていたのであった。想定外の事態に呆然とするレレナにランクアップ出来ないのなら別の報酬を用意してもらうように頼み、組合を後にするのだった。
その夜、前回呼び出された店に2ヶ月ぶりに訪れたメイリーは、これも前回と同じ個室でテイルと侍女、リュートとその護衛2名と対峙していた。
「それで本当なんですね。『宝珠』を手に入れたと言うのは。」
「ええ、まあ。事前にテイル様にご連絡した通り『宝珠』ならありますよ。結構大変でしたけど。」
「そうだったのか。メイリーほどの実力があってもやっぱり『宝竜の迷宮』は大変な場所なんだな。」
テイルは唯一、メイリーの実力を間近で知っている人物である。そんな彼女でも苦戦する迷宮に興味が湧く。しかしメイリーは首を横に振る。
「まあ、迷宮も大変と言えば大変でしたけど、それよりも『宝珠』がドロップしなかったのが問題でした。およそ1ヶ月前に『竜珠』ってのが宝竜からドロップした時…ってどうしましたか?」
『竜珠』の名前が出た途端、リュートと護衛2名の雰囲気がガラリと変わる。
「今、『竜珠』と言ったか?」
「ええ、そう言いましたね。」
「『竜珠』を入手したのか。本当にお前のような餓鬼が!」
今まで黙っていた護衛の1人が怒鳴るような声で詰問してくる。話を聞いてみると今回の目的のためには本来ならば『竜珠』の方が適しているのだが、入手がそれよりも容易な『宝珠』で代用可能であるためそちらで依頼を出したようであった。
「この場で見せてもらうことは可能か?」
「ええ、これですよ。」
収納から取り出した『竜珠』を机に置く。すると護衛2人は身を乗り出して確認する。そして、
「間違いない。これが『竜珠』です。リュート様やりましたね。これで貴方様の評価も。…さてメイリーよ今回の件ご苦労であった。『竜珠』を入手してくれたので本来支払う予定であった報酬に上乗せしてやろうと思う。それでは、」
護衛の1人が勝手に話を進め、竜珠を盗ろうとするので、
「『仕舞え』貴殿方は何か勘違いしてませんか?」
「勘違いだと。それよりも『竜珠』をさっさと…」
「今回の依頼は『宝珠』の入手だ。ならば『竜珠』を貴殿方に納める義務は無い。そのため私は『竜珠』を貴殿方に渡すつもりは何一つ無い。」
メイリーはそう言い放つのであった。




