謎の少女
宝竜の迷宮は魔法の威力を増幅できる『宝玉』などが、埋め込まれた魔獣が多く存在する。『宝玉』にも種類があるがその中で最も増幅効率が高いのが『宝珠』だと言われている。
また宝玉を埋め込まれた魔獣は普通の魔獣よりも魔法での攻撃が増える傾向にあるため、この迷宮に挑戦する冒険者は魔法耐性が厚い装備で挑むのである。その点メイリーの装備は雷虎と暴風狼から作られているので、魔法耐性は十分と言える。
「宝竜の迷宮は全40層で下層には大型魔獣も彷徨いている場合ありか。依頼を優先させるなら運気上昇させて上層で小物狩りの方が効率は良さそうかな?」
集めた情報では『宝珠』な上層で出たことも有るらしい。それならばそっちを狙う方が無難とも言える。しかし、
(まあ今回の狙いは竜だから元々、効率とかは関係ない。まあ途中で宝珠ドロップしてくれれば、宝竜との戦いに集中できるし、運気上昇はかけておこう。)
自身に運気上昇魔法を使用しつつ、メイリーは迷宮探索を始めるのであった。
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クリーア領の冒険者たちの間で今、噂になっている冒険者がいた。普通、迷宮探索に限らず冒険者稼業はパーティーを組んだ方が何倍も効率が良い。それは誰しもがオールマイティーに何でもこなせる訳では無いという理由もあるが、冒険者はある程度何らかに特化した方が良いためである。魔法なり接近戦なりに特化した者たちがパーティーを組む方が、1人で前衛も後衛もやるより効率が良いのは火を見るよりも明らかである。
そのためクリーア領のある冒険者が、1人で迷宮に入ってこうとする少女を制止した。普通の迷宮でもソロ探索は危険な行為である。しかもあろうことかその少女は高位迷宮の1つ、『宝竜の迷宮』に1人で挑もうとしていたのであった。
「何をしているんだ。君の仲間は?と言うよりも君みたいな幼い少女が宝竜の迷宮なんて!」
「はぁ。もともと仲間はいません。これまでもこれからも1人の予定なので。」
少女は冒険者の制止を振り切り迷宮に入ってしまった。この冒険者とそのパーティーたちは彼女の言葉を仲間を失って自棄になった自殺擬きだと判断し、すぐに追いかけたが見つからなかった。正義感の強い彼らはその日、気落ちして組合に帰るとそこには朝の少女がいたのだ。
「き、君。良かった無事だったんだね。」
「ああ、今朝の、無事と言われましても特に危険に陥った記憶はございませんが。」
この少女は迷宮のソロ探索の危険性を理解していないのだろうと、彼らは感じる。
「そ、そうか。それにしても組合に何をしに?」
「何をと言われれば、ドロップアイテムとか魔獣の素材を売りにとしか。」
「しかし君はそれらを持っているためようには見えないが?」
と言う少女は何も持っていなかった。そのためやはり何らかの隠しごとをしているのではと問うと、
「ああ、収納してるだけですよ。ほら。」
「え、ええ!収納魔法。と言うことは空間魔法を使えるのか?」
「ええ、まあ。」
空間魔法を扱える術者はほとんどいない。しかし空間魔法の恩恵の凄さは冒険者ならば全員が理解できるはずだ。荷物を収納でき、目的地までに掛かる日数を短縮できる。空間魔法が使える者がパーティーにいれば冒険が格段にやり易くなるだろう。
そのためその少女の勧誘合戦が組合で始まったことは言うまでも無い。しかし彼女は、頑なにそれを拒否した。中にはAランクパーティーからの誘いも有ったのにだ。
そのため一度は収まった勧誘であったが、それから毎日のように彼女はパーティーで狩る量の倍程度の素材とドロップアイテムを、組合に売りに来るようになったので、クリーア領の組合では毎日のように少女の勧誘合戦が繰り広げられているのだった。




