幽霊屋敷 前
最初は幼い体と見慣れていないため奇異な目で見られていたメイリーだったが、王都で何度か依頼をこなしたことにより、そんな視線を向けられることも無くなり、他の冒険者からパーティーメンバーとして誘われたり、クランに勧誘されるようになっていた。
しかし今のところ1人依頼をこなすのに困っていないメイリーはこれらを断り続けているのだった。そんな日々を送っているとメイリーの担当受付嬢になってくれているレレナから、ある依頼を手渡される。
「えーと、幽霊屋敷の探索ですか?」
「そうなの。死霊系の魔物が出ると考えられるんだけど、死霊系って戦闘職には天敵だし、低ランクの冒険者だと倒せたとしても威力の調節が甘いでしょ。今回は屋敷だからそれだと困るのよね。」
「そうですか。でも何で私に?そういうことならもっと高位の冒険者さんたちに頼めばいいのでは?」
当然の疑問を口にするメイリー、しかしそれは想定済みだったのかレレナは少し申し訳なさそうな表情をする。
「えーと、ですね。この依頼の報酬がですね。この幽霊屋敷の格安で買う権利、何ですよ。冒険者組合の制度として依頼の難易度と報酬を加味して依頼のランクを制定するんですけど、」
「報酬が少ないせいで、高ランクの冒険者が受けてくれそうも無いってことですか。」
「そのー…まあ。でもメイリーさん。今は宿暮らしでしたけど、持ち家を買いたいって言ってましたよね?」
そう言われたメイリーは、誰が幽霊屋敷を買いたいって言ったよ、という目をレレナに向ける。
「小さい頃からコツコツ貯めた金があるので、普通に屋敷を買えるだけの蓄えは用意しています。」
「ええ!そうなの。じゃ、じゃあ?」
「いえ、受けさせて貰いますよ。面白そうですし。ファンタジーの定番です。」
「ほ、本当ですか?ありがとうございました。直ぐに手続きしますね。」
(やっぱり不良債権押し付けられた感じは拭えないけど。面白そう。あれ?でも私、死霊系に通用する魔法、何か覚えてたっけ?)
多分、幽霊屋敷って噂ついちゃったら売れないから、冒険者に依頼と称して売り付けちゃおうという魂胆なのだろう。それはいいがメイリーは自身が使える魔法が幽霊に通用するのか一抹の不安がよぎるのであった。
依頼を受けて直ぐに屋敷に着いてみると、幽霊屋敷と言うにはかなりしっかりとした造りであった。これが格安で手に入るなら良い依頼かもしれない。
「それでは私はこれで。えーと、鍵は渡しておきますので解決したら返しに来て下さい。それでは。」
「はぁ。ってまっ、行っちゃったな。」
近づきたく無いのかこの屋敷を管理する不動産屋の人はさっさと帰ってしまった。
「まあいいや。それじゃあ。早速乗り込むとしようか。」
メイリーが幽霊屋敷の鍵を開けて、扉に手をかける。その瞬間何処からともなく声が聞こえてくる。
「かえれ、ここからたちされ」
不気味な声が脳内に直接聴こえてくる。
「念話?魔法じゃないよね。」
しかしメイリーは別に声が聴こえるだけで害は無いので、普通に気にせず屋敷内に入っていくのだった。




