教頭の策略
7月も下旬となり今日終業式が終わり学生たちにとって待ちに待った夏休みが到来する。芽衣としては今年も変わらずゲーム三昧を送るつもりであったが、毎年恒例の天童家との予定の他に『魔法演舞』の本選などの邪魔くさいのが入っているのでそう上手くはいかないようであった。
それを裏付けるかのように、別に頼んでもいないのに終業式やその終わりのHRでクラスメートに激励会をして貰って、無駄に目立ってしまいへとへとな状態で、帰り支度を済ませたところで職員室へ呼び出しを受けてしまった。
「鹿島芽衣さんだね。こんにちは。」
「はぁ。こんにちは。えーと?」
「教頭の高松です。宜しく。本当なら校長先生から激励をっと思っていたんだけどね。校長先生は終業式の後すぐに出なきゃいけない用事があったからね。代わりに私がってことでね。」
「激励会なら散々やってもらいましたけど。」
嫌味でそう言うが教頭先生はニコニコしているだけで、穏やかそうな先生である。芽衣もこの学校に来て3ヶ月半のため先生を全然知らないのだが、まさか教頭だったとは驚きである。
(それに校長先生って言われても誰だかわからないから、別にいいんだけど。)
激励などいらないから早く帰らせて欲しそうな目で教頭を見てると、それを察したのか苦笑いしつつ、話を切り出してくる。
「はは、学生の貴重な時間を無駄にしてはいけないし、本題といかせて貰うよ。君に取材や話、おそらく企業からのスカウトでしょうか。それらを求める電話が何件も来ています。受けますか?」
「うーん。断っといて下さい。そういうのは好かないので。」
「はい、ではそのようにしておきますね。」
「…?」
「林藤先生より貴方のことはある程度聞いています。貴方がこういうことをやりたがらないことも。ただ、学校側としても生徒に確認せず断るわけにもいきません。それに校長先生は受ける気満々でしたからね。おそらく断っても説得してきましたよ。」
芽衣は苦々しい表情をとる。
「まあ、ですので校長先生がいない間に私がと言うことです。それでは話は以上です。」
「ありがとうございました。」
教頭先生の気遣いに感謝しつつ、職員室を退室するのだった。
芽衣が退室した後、1人の先生が教頭に話しかける。
「良かったんですか?校長先生から絶対に了承させろって言われてたんじゃ?」
そう言われた高松は朗らかな笑みを浮かべながら言い返した。
「いいんですよ。鹿島さんはあまり目立つのが好きではない。そんな彼女に無理矢理取材など受けさせて調子でも崩されたら困ります。それに、あの子はまだ一年生です。ここで我々教師陣に不信感を持たれてはこの先が不安なのです。」
「はぁ。そうですね。」
「校長先生は取材やらスカウトを実績にしたいようですが、我が校は『魔法演舞』の成績の方が実績になる筈なのです。それをあの方は見誤っていらっしゃるのです。」
教頭は熱弁しつつも笑みを浮かべたままであった。それを見た教師はただ、黙るしか無かった。こうして学校側の協力もあり芽衣が取材やらに煩わせられることは回避されるのだった。




