新事業の失敗
王都の冒険者組合で何件か依頼を受けた後、テイルを運んだ馬車と御者の護衛として一度ステンド領に戻ることになった。メイリーとしてはステンド領から王都までのマッピングが完了しているため、空間魔法の遠距離転移で直ぐに帰ってくることが可能になっていた。そのためメイリーはこの依頼を引き受けることにしたのだ。
護衛の観点からも移動時間は早い方がいいので、メイリーが尽力したこともあり、予定よりも早い半日程でステンド領に到着した。
「やはりメイリー様のお陰で魔獣の出現率も大分減りましたね。」
「そうですね。まあまだどうなるかわかりませんが。それでは私はこれで。」
「はい。ありがとうございました。」
依頼を完了させたメイリーは、本当ならちょっとした事情があって近づきたくないのだが、姉であるリリーの様子も気になるので実家に戻ることた。
「メイリー様だ。メイリー様が帰って来てくれたぞ。」
「おお、メイリー様。おかえりなさいませ。」
「皆さん。ただいま戻りました。」
実家を出ていったメイリーが帰ってくると歓迎される。これもメイリーがここに近づきたくない理由の一つであった。それに我慢しつつ、リリーの部屋に行くメイリー。リリーは現在12歳となり、実家で『真実の眼』を使って手伝いをしつつ、今は街のパン屋で働いていた。元々、料理が好きだったようでそれを生かしつつ、家柄上、多少学んでいた経営を生かせる飲食店の道に進んだそうだ。
「私もメイリーも自立したことになるわね。まあ私はまだ見習いだけど。はぁー。それなのにライル兄さんは。」
「それは、まあ私が邪魔しちゃった形になるんだけど…」
「着眼点は良かったのよ。でもお父さんたちの静止を振り切ってやった事業が失敗しちゃったんだもの。」
ステンド領では冒険者稼業があまり盛んではない。それは近くに迷宮も無く魔獣も小型が少量しか出現しないためである。そのためあまり冒険者をターゲットにした店が少なかった。しかしそこに来て魔獣増加の一報である。初期は急激な変化で冒険者も増加しなかったが、魔獣増加が収まり安定期に入ってきた。そのためここから冒険者が増えると予想したライルは、冒険者向けの事業を展開しようと考えたのだ。
魔獣増加によって生じた不利益を新事業で取り返そうと考えた訳だった。
「でもそうなってるのは家だけじゃ無かったから安定したなら普通にやってれば元のようになれるってのがお父さんたちの考えだったのに。それにメイリーのお陰で領主様との太いパイプも出来てたんだし。」
「まあ、私のお陰でって言うのも悪かったんだと思う。でも魔獣が減ってきちゃったから。」
そう。メイリーの雷虎討伐によって魔獣は徐々に減少傾向にある。あと数年もすれば元の平和な領地に戻ってしまうだろう。そのため新事業にかかった費用を回収することは出来そうになかった。この失敗を従業員たちは問題視してしまった。そしてメイリー、またはリリーに跡継ぎを、と言う案がまたもや再燃してしまったのだった。
「私は直ぐに帰りますけど、リリー姉さんは気をつけて下さい。」
「うん。メイリーも元気で。」
2人が願うのはライルの成功。そして自身の平穏なのである。




