雷虎戦のその後
翌日、メイリーの右肩の噛み傷は完全に塞がっていた。『自動回復』のお陰であるが、暴風狼の外套が無ければ確実に右肩から下が無くなって、止めの一撃を決められたかもわからないし、もし倒せていたとしても回復に更に時間がかかったことだろう。
昨日は遅くまでステンド家や使用人たちに雷虎との戦いの話をして、その後この傷で帰すのも心配だからと屋敷で一泊させて貰っていた。朝起きると侍女の人々が心配そうに看病してくてされていたので、塞がった傷痕を見せて平気なことをアピールしておいた。朝食もティーチたちもと一緒に取ることになった。
「それにしても『自動回復』というスキルは、危険が多い戦闘職にはうってつけだな。昨日は腕が取れかかっていたにも関わらず今日には傷痕がうっすら見える程度。些細な傷は最早消えてしまっておる。」
「メイリーは凄いからな。まあ流石は俺の師匠なだけはある。」
「ふふふ、本当ね。」
「はぁ。」
(褒められるのも居心地悪いな。)
そんな朝食を終えたメイリーは、雷虎討伐と、怪我により数日間療養することを伝えに行く事にした。メイリーは遠慮したのだが、ティーチたちの強引にお付きにアリスが付いてくることになった。
「すいません。アリスさん。お手数をおかけてしまって。」
「いえいえ、メイリー様はこの街の、更にはこの近隣の領地の救世主様でございます。堂々とお使い下さい。それに傷は塞がっていてもまだ右腕は動かせないのでしょう?」
「バレてましたか。それじゃあすいません。」
恐縮しっぱなしのメイリーは、アリスを連れて組合に到着する。侍女を連れたメイリーは、そうでなくとも最年少でDランクとなっており目立つのに、更に目立ってしまう。しかしここ2年でそんなのにも慣れてしまったメイリーは、受付カウンターにいるお馴染みの受付嬢、レレナに声を掛けた。
「こんにちは。」
「はい。メイリーさん。こんにちは。今日は依頼、て訳では無さそうですね。また大物の狩りですか?いいですけどランクを上げたいならそればかりじゃ駄目ですよ?」
「まあ今回はそれだけじゃ無いんだけどね。一応、ティーチ様からの言伝も預かっています。別に誰でもいいんで、レレナさん聞きますか?」
「領主様からの、いえいえそんな!奥に組合長もいるので案内しますね。」
レレナは慌てて首を振り拒否し、提案した。しかしメイリーはその提案に嫌な顔をする。
「はぁ。でも手紙なんで後で渡して貰えますか?私、どうもあの組合長は好きになれない。あと、ちょっとこの件で怪我を負ってしまって、数日間は依頼を受けられ無いのでその報告に。」
「えっ?」
レレナは数少ないメイリーのスキル『自動回復』を知っている人の一人である。そのため怪我で療養が必要と聞き驚いてしまう。
「そんなに大怪我を負ったんですか?」
「まあそうなりますね。」
「どんな魔獣ですか?それとも盗賊団とか?」
取り乱すレレナ。メイリーの強さをこの2年以上の間、受付嬢として見てきたレレナにとってメイリーが大怪我を負う程の相手がこの近隣にいると言うことは恐怖でしかない。
メイリーはしょうがないので、説明することにする。ただ口で説明しても分かりにくいと考えたメイリーは、実物を見せながら説明することにした。
「えーとね。この雷虎と戦ったんだけど、ってあれ?」
「雷虎?本物?あばば…」
大型魔獣など見たことも無いレレナは、雷虎の迫力で放心状態に陥ってしまうのだった。




