VS.雷虎 後
メイリーは、自身が今放てる最高火力の魔法の発動準備に入る。本来なら動きながら行うそれを立ち止まって発動にだけ集中している。それには雷虎も危機感を抱いたようで、迎撃体勢に入る。本来ならばこの魔法を躱してから攻撃を仕掛ける場面なのだが、この戦いで唯一と言っていい有効打を食らい冷静さを失っている雷虎は、魔法を発動する前に倒すべく襲ってくる。
「『焔の槍よ、敵を穿ち、」
「ガァーウァーー!!」
いつもなら回避行動を取っている所なのだが、詠唱を続ける判断をするメイリー。しかし詠唱が間に合わず、右腕ごと肩まで深く噛み付かれてしまう。雷虎は勝利を確信する。
しかしメイリーは笑顔で雷虎を見つめ、残った左腕で雷虎の頭を押さえつける。その瞬間、雷虎はメイリーのやろうとしていることを理解し、暴れ出す。しかし肉体強化を何重にも施しているメイリーから簡単には逃れなれない。
「ァーー!ゥー!」
「燃やし尽くせ』」
メイリーの最大火力の焔槍が雷虎を中から燃やす。これがメイリーの奥の手であった。高威力の魔法は準備に手間取り当てることも難しいが、超至近距離からならば当てられる。雷虎も高位の魔獣のため再生力は高いが、残念ながら口の中から焔槍をぶち込まれて、内蔵を焼かれても元通りとはいかない。しかしメイリーには奥の手の『自動回復』によって死にさえしなければ、最悪どこまで怪我しても大丈夫なのだ。
メイリーには捨て身の攻撃が出来たが、雷虎にはそれが出来なかった。回復力の差が勝利を分けたのだった。
(まあ奥の手と言うか、『自動回復』が無かったらまず戦えて無いけどね。取り敢えず勝った。)
『鑑定眼』で雷虎の死亡を確認する。生きてる時は名前しか鑑定出来なかったが、現在は色々と鑑定出来ていた。
ひとまずもう血が止まってるが動かせない右腕に回復魔法をかけつつ、雷虎の処理を行うのであった。
翌日にしても良かったのだが明日は組合に怪我のことを報告しておきたいので、痛む傷に耐えつつステンド家に向かう。血だらけの状態であったので門番に止められてしまうが、彼らとも6年間の付き合いである。着替えることを条件にティーチに会えることになった。
着替えに侍女が手伝いに来てくれることになった。いつもなら遠慮するところなのだが、ここにある着替えでは今の右腕の状態では着にくいため、お願いすることにした。するとマリアの侍女である、アリスが来てくれる。
「大丈夫でございますか?メイリー様。」
「大丈夫ですよ。ちょっと虎に腕ごと食われかけただけなので。」
「え、ええ!? それはどういう。」
「まだ言えるかどうかわからないので、全部は言えませんが、多分もうすぐガンルーさんが帰ってきますよ?」
メイリーの衝撃発言に驚きを隠せない様子のアリスさんだったので、しょうがないのでここは夫であるガンルーの力を借りる。
何とか落ち着いたアリスに手伝って貰いながら、何とか着替えを完了し部屋で待機しているとすぐにティーチが入ってくる。
「傷だらけだと聞いた。君ほどの強者がどうした?」
「…単刀直入に言えば、魔獣増加はおそらく収まると思います。徐々にだけど前と同じような感じに戻るでしょう。」
「原因を見つけたのか?いや、倒したのか?それはいったい何だったのだ?」
「えーと、見つけて倒しました。魔獣増加の原因は大型魔獣、雷虎でした。えーと見せましょうか?」
「あ、ああ。見せてくれ。」
メイリーは収納空間にしまってあった雷虎の亡骸を取り出す。死してなおはっきりと分かる強大さにティーチは言葉を失う。
「おそらくこの雷虎が原因でしょう。最奥地付近に雷虎の寝床がありましたし。もしこれが原因ではなく、もっと強大な魔獣がいた場合は、流石に個人じゃ手に終えないので、国に掛け合ってください。」
「…ああ。」
驚き過ぎて反応が鈍いティーチ。
「それでこの雷虎はどうしましょうか?正直、外套も今回の戦闘でボロボロなので、これで新しく装備を整えたいんですが。」
「そうだな。もう隠すことも無いだろう。これは組合にも報告してくれ。私も近隣の領主たちに報告しておこう。」
「いいんですか?」
今までメイリーの強さを隠そうとしていたティーチらしかぬ行動であった。
「もう、君の強さは近隣に知れ渡っているよ。しかしどのくらいかはまだはっきりと伝わっていない。いい機会でもあるしね。」
「そういうことならありがたく。それとこの雷虎の素材での装備なんですけど。」
「ああ、わかっている。こちらのツテを使い最高級の装備になるよう手配しよう。」
「ありがとうございます。」
「いや、お礼を言うのはこちらの方だ。ありがとう。さて、今日はまだ時間は大丈夫かい?」
「はい?大丈夫ですけど?」
「良かった。ならば雷虎との一戦を聞かせてくれないか?そうだな。折角だテイルやマリアも呼んで。」
そのあと、メイリーは雷虎との激闘の様子をステンド家の面々に語ることになるのだった。




