拘束魔法
メイリーは将来、冒険者になるためにこの世界の様々な攻撃魔法を習得してきた。勿論、命を張る職業のため、自分の身を守るためにそれも大切なのだが、冒険者は依頼の成功報酬以外に、組合に魔獣の素材などを売ることで生計を立てるので、攻撃魔法で魔獣をボロボロにし過ぎるのは、良くなかったりする。
そのため最近のメイリーは、暴風狼クラスの強敵にも通用する攻撃魔法の開発も平行してやりつつ、拘束系などの他者を傷付けない魔法の習得、開発にも勤しんでいた。
現在はテイルとの模擬戦闘と言うことで、メイリーは攻撃魔法無しのルールで行っていた。
「ほらほら、攻撃しないと、すぐに終わってしまいますよ。」
「『千なる矢よ、連写し、敵を射ぬけ』」
「『防げ、風楯』、『捕らえろ、土枷』」
魔弾の射手を教えてから、応用の効く魔法矢に興味を示したテイルは、今でも主の攻撃魔法に魔法矢を選択していた。しかしメイリーは千本の矢の塊を風楯で防いでしまう。続けてメイリーの魔法により足を取られる。
「くっそ、『地鳴れ』」
「『封じろ、土縛棺』」
土魔法で土枷を外そうと試みるが、それを見越してメイリーが顔以外を土で覆ってしまう。メイリーとテイルでは、魔法の威力、発動速度ともにまだまだ差があるようであった。
「『解除』っと。どうでしたか? 」
「くそ!また負けた。こっちだけ攻撃魔法有りでも発動速度が圧倒的だから、攻撃なんてほとんど出来ないからな。その発動の練習が必要かな?」
テイルは自身の敗北の理由をしっかり考察でき、どうすれば良いかわかっている。相手が悪いだけであり、同年代、学院の生徒たちと比べても魔法力、発動速度ともにトップクラスの実力を持っているだろう。しかしメイリーのお陰で傲ることなく、日々努力を積み重ねているのだ。彼はどんどん実力を伸ばしている。
「でも、地鳴りで土枷を外そうとしたのはいい判断でしたよ。」
「本当か?」
「まあ私が拘束系の魔法しか使ってこないことはわかってるんですから、一番単純な土魔法を警戒してなかったのはいただけません。攻撃魔法に集中しすぎず、相手にも注意を向けましょうね。」
「…わかってるよ。」
誉められて嬉しそうにしたテイルに、反省点を伝え落ち込ませる。それでも成長著しいのは本当で、メイリーも実は驚いているのだ。
「それにしても拘束系って強いな。僕はほとんど覚えていないけど。」
「まあ拘束魔法の多くは、魔法の発動だけならそう難しく無いですよ。ただ発動座標を正確にしないといけないので、慣れていないと時間がかかるので初心者にはオススメ出来ない魔法なんです。」
「そうなのか。」
「しかし、テイル様なら使えると思いますよ。覚えてみますか?」
「本当か!なら早速やろうじゃないか。」
教えに来る正式な家庭教師からもそろそろ教わることが無くなってきて、新しい魔法を久しく練習していなかったテイルは目の色を変えて、拘束魔法の練習に取り組み出すのであった。




