初めての冒険者組合
スキルも手に入り、ティーチとの約束通り漸く冒険者として活動出来るようになったメイリーは、冒険者組合に来ていた。メイリーの家の商会がある場所やステンド家の屋敷がある場所とは反対側にあるため、あまりここら辺には来たことが無かった。
冒険者組合に入ると受付カウンターが見えたのでそこに直行する。
「こんにちは。」
「こんにちは。えーと、ご用件は?」
「依頼を受けたいんですが、おすすめってありますか?」
「はぁ、おすすめですか。…えっ!」
まさかメイリーが冒険者として依頼を受けようとしているとは思っていなかったようで、吃驚してしまった受付嬢。
「あの、冒険者ライセンスはお持ちですか?」
「ああ、ありますよ。はい!」
「え?持ってるんですか。拝見しま…」
メイリーのライセンスに刻まれた貴族紋を見つけ呆然と立ち尽くしてしまう。再起動した受付嬢は、メイリーを置いて奥の方に走って行ってしまった。少し待っていると焦りを露わにしながら戻ってきた受付嬢がメイリーに謝ってくる。
「お待たせして本当に申し訳ございません。それでですね。組合としましては、貴族紋をお持ちの方でも実力がわからないことには依頼を斡旋することは出来かねますので、戦闘力を測るテストをして頂けますでしょうか?」
「はぁ。わかりました。」
聞いていた話と違って面倒な手続きがあるようだが、メイリーとしても年齢や体格で判断されて簡単な依頼ばかり斡旋されても困るので、素直に受けることにした。
組合の後ろにある訓練場で待機していると、大柄で強面の男がやって来る。
「おい、コーリン。俺を呼び出すからどんな奴が相手かと思ったらただの餓鬼じゃねーか。こんな奴テストするまでも無く不合格だろうが。」
「仕方ないでしょ。相手は貴族紋持ちなのよ。…こほん。それでは試験管も到着したところでテストを開始します。ルールは殺しは無しで、相手が降参するか、気絶したらそれ以上の攻撃を禁止。それ以外は何でもありです。わかりましたか。」
「はい。」
「ははは、餓鬼がいっちょまえに返事だけしやがって。冒険者を舐めてんのか。」
おもいっきり威圧してくる男。しかしメイリーから見ると、その男はガンルーよりも弱そうであった。
(まあ自信満々なんだから、何かしらあるんでしょ。)
メイリーは油断しないように男を見据えた。
「それでは始めて下さい。」
「おりゃぁぁー。」
開始早々、大剣を抜き、無警戒に突進してくる男。やはり脅威に感じないので、メイリーも無警戒で魔法を放つ。
「『風刃よ、敵を切り裂け』」
メイリーの風刃が大剣を支える右腕を切り裂く。
「あ、あ、うぁぁ。俺の右腕がぁ。」
喚いている男を放っておき追撃する。
「風掌よ、放て」
切断された腕を見ながら泣き喚く男の顎に風の掌底をヒットさせる。しかしそれでもまだ意識が有りそうなので、高火力の魔法で止めを刺そうと発動準備に入る、その時。
「そ、それまで。終了です。勝者はえーと、メイリーさん。」
受付嬢が終了の合図をだし、男に駈け寄りポーションを振りかけ、止血した。そして立ち上がりメイリーをキッ、と見つめて、
「やり過ぎです。何もここまでやる必要は無かったはずです。戦士にとっての生命線の腕を…」
「はぁ。不用意に近づいて来たので、何らかの対策をしていると考えただけです。冒険者なのに未知の敵に対して対策が取れてなかったその方の落ち度でしょ?」
「それは!…そうですが。」
メイリーは知らないが、こういう貴族紋等によってライセンスを取得する輩を正式に取得した冒険者たちはよく思っていない節がある。それは組合側も同じである。そのためテストと称してそういった実力の伴わない輩を不合格とする風習があるのだった。
「それで合格ですか?」
「…はい。」
試験管を務めたこの男もこの街では名の知れた高ランク冒険者であった。しかしこんな嫌がらせみたいなことで、組合側は大切な戦力を失ってしまうのだった。




