兄妹喧嘩
こんな筈じゃ無かったのに
「巫山戯るな!お前が将来、どんな道に進みたいかなどどうでも良い。お前は我が商会の一員なのだから商会のために身を粉にして働く義務があるだろう。」
「はぁ。そうですか。」
3年半前、リリーのスキル授与以降、ライルは人が変わってしまった。昔の面影は無い。しかし違和感もある。ライルの性格上、思っていても面と向かって言ってくるタイプでは無いはずだったのに。
「そうだな。お前に商売の才能は無いだろうが、まあ今までのように荷物の輸送や護衛なら少しは役に立つだろうし、リリーは俺の補佐として働かせて、嘘を見破らせれば騙されることも無くなる。これで我が商会も万全だろう。」
(これはだいぶ拗らせているな。それにその体制にするならトップはライル兄さんじゃなくても、いいじゃないか。)
ライルが提案した体制ならば、ライルのような経験も才能も無い若造ではなく、そう言った物が備わった人をトップに据えるか、それかリリーをトップにした方がスムーズにことが進むだろう。リリーが、嘘を見破れてもリリーが嘘を付かないとは限らないのだから。
「この商会に残るメリットが無いからな。それにリリー姉さんもここに残る積もりはないと思いますよ。」
「な、何だと!そんな勝手を許すわけが無いだろう!」
(お前の許しなんかいらないがな。)
流石に煽り過ぎると話が前に進まないので心の中で毒づくメイリー。
「大体、商会が危機的状況にあるのに勝手な考えをすることがまず有り得ないだろう。父さんと母さんも商会が上向きだったからお前の行動に目を瞑ってくれていたんだ。これからは商会の為だけに尽くせ。」
「ああ、そう言うことか。ばかばかしいな。」
メイリーはライルの台詞からある程度理解した。何故ライルが直接言いに来たのか。理解した。
「な、馬鹿にしてるのか!」
「まあそうですね。どうせお父さんとお母さんがリリー姉さんや私が商会に残ってくれたらって言っているのを聞いたんでしょ?」
「は?そ、そうだが。それがなんだと言うんだ。それこそが父さんたちの本心だろう。」
「まあそうなんですけど。」
メイリーが言いたいことはそれでは無い。
「ライル兄さんは努力をしてこなかった。そのツケを私やリリー姉さんに払わせようとしている。」
「なっ、ふざけ…」
「ふざけてません。ライル兄さんは今まで人に言われたことしかやってこなかった。でも危機的状況になって誰も指示してくれない状況になって、どうすれば良いかわからなくなった。」
「ちが、そんなんじゃ。」
「で、お父さんたちが私たちが残ってくれればって話を聞いて、またそれに従って。楽ですね。」
「巫山戯るな。巫山戯るな。巫山戯るな。」
ライルは同じ言葉を繰り返すしか出来なかった。
「私たちはもともと、ここに残る道は無かった。だから努力するしか無かった。私たちの気持ちは商会を、『我が商会』なんて言ってるライル兄さんにはわからないですよ。」
そう言ってメイリーは、茫然自失なライルを残してステンド家に向かうのだった。
魔法の授業をしつつ、先ほどの口論を思い出す。
(熱くなりすぎた。あんな子供の戯言、聞き流せば良かった。前世の知識があっても性格は肉体に多少引っ張られちゃうのかな?)
そんなことを考えてると
「おいメイリー。集中しろよ。何かあったのか?」
テイルからお叱りを受ける。メイリーがことの経緯を話すと、テイルは少し笑いながら羨ましそうに呟く。
「はは、お前もそんな子供らしいことあるんだな。でも兄妹喧嘩か。僕はやれないからな。」
「そうですね。」
「まああんまり気にしなくて良いと思うぞ。それは絶対にメイリーの兄が悪いんだしな。」
「はぁ。ありがとうございます。テイル様」
「う、うん…」
珍しいことにテイルに慰められる形となったメイリーは笑顔でお礼を言う。するとテイルは何故か顔を真っ赤にして俯いてしまった。




