和解と対立
暴風狼という強敵との戦闘の興奮が収まらない芽衣。VRゲームは、熱中しすぎた人たちが、栄養失調や寝不足で倒れるという事件が多発してから規制が厳しく、現実世界で連続で3時間以上のプレイが出来ないようになっているため、芽衣は、興奮の熱を他のゲームにぶつけていた。
(それにしてもよく倒せたな。というかよく空間穴なんて思い付いたものだな。…あれを失敗してたら今頃、ゲームオーバーだったのか。そう言えばゲーム中で死んだらどうなるんだろう。)
初歩的な疑問だったがそういえば今まで考えたことは無かった。転生を体験するというかコンセプトからして、普通にセーブポイントからやり直しみたいな感じでは無いだろう。かと言ってもう一度やり直しも厳しい。
(父さんの考えることだからな。訳わからんことになってる可能性もあるな。)
そう考えるとメイリーはかなり危険な行動ばかりしているなと、改めて思う芽衣であった。
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ティーチとメイリーは協議を重ね、ある程度の結論を出した。メイリーとしては報酬はいらないので自由を保障して欲しく、ティーチとしては適切な報酬は支払えないが出来る限りの便宜は図るので、問題が起きたら解決に力を貸して欲しいという事であった。
その結果、メイリーはランクが上がるまでこの領地やこの近辺で活動するので、それまでに出来るだけ問題解決に力を尽くし、それでも解決に至らなかったら定期的にこの領地に帰ってくる。そしてティーチは、報酬として足りるかわからないがメイリーの後ろ盾となる事を約束するのだった。
「すまない。本来なら我々で何とかしなければならない問題なのに。我は我の力が及ぶ限り君の自由が阻害され無いように力を尽くさせて貰おう。」
「はい。お願いします。別に私もこの街が嫌いな訳では無いので。」
色々と意固地になっていたメイリーだったが、冷静に戻り譲歩することで一応和解という形となった。
しかしこれで終わりでは無い。この魔獣増加問題の余波は他の所にも出てしまっていた。魔獣増加に伴い物流が停滞しだしたのだ。メイリーの家の商会も少なくない損害が出ていた。これがもう少し都市部であれば冒険者が集まり、街が賑わったりもするのだが、ここは少し田舎過ぎたのだろう。
そんな危機的状況のため、商会の跡継ぎであるライルが今までよりも増して苛立ちを募らせているのだ。そのためなのか、ライルはメイリーに声をかけてくる。
「メイリー。お前は我が商会、未曾有の危機に何故そんな呑気にしていられるんだ。」
「呑気とは穏やかじゃ無いですね。別にそんなつもりはさらさらありませんが?」
「呑気だね。呑気じゃ無いのなら何故お前は仕事もせずのんびりしているのだ。」
「のんびりしているように見えましたか。それなら失礼しました。これでも今から仕事がありますよ。」
これからメイリーは週1でのテイルへの魔法講師の時間であった。
「そう言うことじゃ…いやそれもあった。お前はどうして領主家からの仕事の報酬を貰っているのだ。」
「はぁ。仕事をしたら報酬を受け取るのは当たり前のことでは?もしかしてライル兄さんは仕事をしても報酬も受け取らないのですか?」
「そう言う事を言っているんじゃない!!何故報酬を我が商会に入れないのがと聞いているのだ。私もリリーも仕事の給料など受け取らず全て商会に入れているのにだ。」
ライルの言いたいことをわかっていて煽るメイリー。ライルは怒って本心を言ってしまうがそれは的外れな意見であった。
「ライル兄さんやリリー姉さんのお手伝いと私の依頼を同列に語って欲しく無いですね。」
「な、何だと!」
「私も商会のお手伝いは報酬を貰ってませんよ。報酬を受け取ってるのは他者からの正式な依頼だけです。それに将来、商会に残る気満々のライル兄さんと違って、お金は必要ですから。」
メイリーの煽りに顔を真っ赤にするライル。もう怒りが抑えきれないようであった。




