譲れない条件
メイリーの予感が合ってても、間違ってても暴風狼1匹と旋風狼2匹が出没したというだけで大事である。しかしこの街では対策の取りようも無い。今はライム領主の頼みをティーチが聞き、ガンルーを警備の補佐に出しているため、もしガンルーに危険が降り掛かるような事態になれば、ティーチの命令で動くかはわからないが、アリスさんのお願いでメイリーが助けに行くこともあるだろう。
しかし、ガンルーの出向期間が終了すればライム領に暴風狼はおろか、旋風狼を倒せる戦力すら無い。他の場所からそれらを倒せる冒険者たちを雇えるならば、もともと隣街のステンド家に頼んでいない。そのためライム領の領主や騎士団に伝えた所で混乱を招くだけなので、ティーチにのみ伝えておくことにした。
「とは言え俺も旋風狼をギリギリ相手取れるくらいで、お前の予想通りの事態になってもそれを対処できるのはお前だけだぞ。」
「私の興味を引く相手ならやるけど、そうじゃないなら街の行く末は正直どうでも、ってのが私の意見だし、それに今の私じゃ不意を打たなきゃ暴風狼を倒すことも出来ない。それ以上の相手だった場合、ケチってる場合じゃなくて本職を呼ぶべきだろう。」
メイリーの正論に何も言い返せないガンルー。本職に頼むだけの金が無いからメイリーに頼むと言うことは、メイリーに正当な報酬を払う気が無いと言うことであるし、客観的にまだスキルすら授けられていない幼子に負担を押しつけるという、構図は明らかに異常であった。
「しかしだな。」
「私は戦闘が好きなんじゃなくて、自由に冒険がしたいの。そのアトラクションとして戦闘を楽しんでるんです。強制されたら意味が無いんですよ。」
今はまだ良くても、メイリーはあと半年足らずで冒険者として活動し出す。その時に今のようにされても困るので釘を刺しておくのだった。
兎に角、ガンルーの行動の決定権は雇い主のティーチにあるので、まずはティーチにこの状況を報告しないことには、動けないのでメイリーはガンルーの手紙を持ってステンド領に向かった。
ガンルーからの手紙を渡しつつ、口頭でも状況を説明する。するとティーチは頭を抱える。
「暴風狼なんて情報が出回ったらここら辺に寄り付く人たちはいなくなるだろう。それに領民たちも出て行きたがるかもしれん。どうするか。」
手紙を読みながらメイリーをチラチラ見てくるところから推察するに、手紙にメイリーの意見が書かれているのだろう。
「正直に言えば、君に頼むしかない状況だ。ここら辺の領地の騎士や冒険者たちは、魔獣に慣れておらずここ数年の魔獣増加に四苦八苦している。中型魔獣など相手に出来ようも無い。かと言って都市部の強力な冒険者を呼ぶほどの資金も無いし、国家騎士の増援もこんな田舎領地にはされないだろう。状況は最悪なのだ。」
ティーチは状況の深刻さをメイリーに訴える。しかしメイリーとしてもそう簡単に頷ける話では無い。メイリーにしか頼れないということは、メイリーがこの街を離れられないと言うことを意味するからだ。
「報酬は払えないけど守れということですか?この脅威が去るまで?」
「…そうだ。君の予想が正しかろうが間違っていようが、事実暴風狼が出没したのならばお願いするしかない。残念ながら君が欲しがるような物を用意することは出来そうに無い。」
「へー。」
メイリーとしても無報酬で働かさせられても、自分の手柄が横取りされても別に大した問題では無かったので、笑って許していた。しかしメイリーのファンタジー世界を自由に冒険するという計画を狂わされれる危険があるのならば、それは絶対に許してはならないのだ。
結局この話は進展しないのままであった。




