魔法発動
メイリーが転生してから数週間が経過した。前世を記憶喪失しているメイリーにはおおよそでしか分からないが、前世に比べてこの世界は独自の魔法が発達しているようであった。この世界では全員が魔法を使える訳では無いようだが、使える者は補助具を使用せずに高度な魔法を行使していた。
また肉体的なレベルも高く人間の成長スピードもそれなりに高いことがわかった。メイリーは数週間で首がすわり少しずつハイハイらしき物が出来るようになっていた。しかもそれを見た家族も大して驚かないことからこれくらいの成長速度が普通であることがわかる。
(うーん。魔法がより高度な技術となり、体の成長速度が早いってことは前世よりも危険な世界なのだろうか。そうだと面白いな。おそらく前世の私はこういったのが好きだったんだろう。)
メイリーは前世の自分を想像しながら日課である模擬ハイハイ運動で体を動かしつつ、前世の魔法の発動する感覚で魔法の発動練習をしている。残念ながら前世の魔法理論とこの世界は異なるのか、それとも肉体的、年齢的に魔法の発動が出来ないのか、未だに魔法の発動は出来ていない。
(もし危険な世界なら戦闘職の需要があるはず。どうせ商会は兄さんと姉さんが継ぐだろうから赤ん坊から鍛えておかなきゃね。)
「おぉーぅうー」
「あらあらメイリー様。またこんなとこまで来て。御坊っちゃまとお嬢様はこんな活発じゃなかったのに。どうしましたか?」
メイリーの息切れを聞いて来たのはこの家の使用人の一人である男であった。
(またか。私の日課の邪魔をしてほしく無いのだが。今日は父の書斎まで行く予定だったのに。こんな時、赤ん坊の体は不便だな。魔法が使えればな、『押せ』)
「ばぶ」
その瞬間、メイリーの思いが伝わったのか魔法が発動する。
「うわ!」
「おぉー」
(おお、魔法が発動したな。でも発動が不完全っぽいな。やはりこの世界の魔法は難しそうだ。だがあまり驚いて無いな。ここでは成長速度が早いから赤ん坊でも魔法を使うのだろうか。)
発動した嬉しさと共に使用人の反応の悪さにこの世界の魔法普及率を上方修正しようとしたとき、使用人が反応を示す。
「えっまほう?め、メイリー様が魔法を?お、お館様。メイリー様がー。」
使用人は走り去ってしまう。
「ばふ。」
(やっぱり赤ん坊で魔法を使うのは異常なのか。良かった。)
慌てて走り去っていく使用人を見ながらメイリーはほっと自身の心配が杞憂であったことに胸を撫で下ろすのだった。そんな場合ではないのだが。