身の丈に合わない名声
今日のメイリーはステンド家の依頼でライム領に来ていた。主な仕事が馬車や荷物の輸送をしなければいけないという関係上、空間魔法を使うには重量が大きすぎるため何時もは浮遊魔法と回復魔法を併用して、移動速度を上げているが、今日はメイリー1人なため空間魔法で10分足らずでステンド領とライム領を行き来できる。他の領地にちょっとした用事がある時などに便利なのだ。
今日の依頼は現在、ライム領にいるガンルーに領主からの手紙、それとついでに彼の妻であるアリスからの手紙を届けると言うモノであった。
「ガンルーさんいますか?」
「ん?どうしたお嬢ちゃん。ガンルーさんは今、忙しいんだよ。そうでなくてもガンルーさんに会いたいって人は大勢いるからね。」
別にガンルーになど会いたい訳では無いのだが、詰所の番をしてる騎士はメイリーのことをガンルーのファンか何かと勘違いしたのだろう。誤解を解くのも面倒だったのでこの人に手紙を渡して貰うことにする。
「はぁ。別に会いたい訳じゃ無いので。じゃあガンルーさんに渡して下さい。それでは。」
「なんだい?手紙か。どれどれ、…なっ、ステンド・ティーチ様から?お嬢ちゃん、君は、」
引き留められると面倒なので、さっさと逃げる。そして詰所から少し離れた所で待機する。すると少し経つと詰所からガンルーが出てくる。
「ティーチ様は時々、私のことを4歳児だって忘れてる気がする。手紙を届けるだけで毎回、面倒くさくて。」
「すまんすまん。一応、番をしてる奴らにはお前のことは言っているんだがな。えーと、それでだな。」
「…ああ、アリスさんからの手紙を渡し忘れてた。はいどうぞ。」
「忘れてたじゃないだろ、毎回だし。」
貴族の手紙を運んでくる子供と言うだけで目立ってしまうし、そこでガンルーと話し込んだらさらになのでこうして毎回、餌を使ってガンルーを呼び出すことにしていた。
「それで、調査の方は大丈夫なんですか?と言うか今更ですけど、ステンド領の騎士のガンルーさんが何でライム領で魔獣の調査何てしてるんですか?」
「有名税ってやつかな。まあ旋風狼レベルの相手だとここらの冒険者たちだと相手にならんからな。」
「ガンルーさんもね。」
「わかってるよ。でもこれでも前よりは強くなったんだぞ。」
旋風狼を1人で倒しこの近隣の街の英雄となったガンルーは、その名に恥じないようにより一層修行に励むようになった。似た魔法を使うメイリーに『飛斬』の運用方について助言を求めてきたりと、その頑張りはメイリーも知っている。しかしそれで旋風狼のような、中型の魔獣を倒せるまでになったかと言えばなんとも言えない。
それでも近隣で1番腕が立つガンルーが適任なのも事実だ。元々、ここら辺に中型の魔獣が出没したことが不自然なのだ。またそれに伴って小型の魔獣や魔物も増えだしたようで、このまま増え続けるようでは近隣の物流はストップせざるを得ない状況に追い込まれる。そこで白羽の矢が立ったのがガンルーなのだ。
「全く。旋風狼クラスの化け物が出ないことを祈るしかないな。」
「折角だからそういうのが出てくれた方が面白いですけどね。まあもし出たときに私がいたら私が相手しますよ。」
「ああ、その時は頼むぞ。はぁー。」
実力の伴わない名声は自身を傷つけるだけだとガンルーを見て、この状況の責任の一端が自分にもあることを棚上げして思うメイリーであった。




