魔法演舞予選 前
凛から受け取った資料を読み込んだり、ゲームで遊びつつ、魔法の練習をしているうちに『魔法演舞』予選会当日を迎えることとなった。会場には県内の学校から選抜された人々と、予選会を観戦する多くの客が詰めかけとても混雑していた。
応援に来てくれた凛と一緒に会場に到着した芽衣は、受付で貰った配付資料を見てみる。
「出場選手を5つのグループに分けて各グループ上位3名と、各グループの4番目で一番成績の良かった者、あわせて16名を予選通過者とする。だって。確か本戦への出場人数って、」
「4人だよ。決勝は魔法模擬戦闘が多いけど、毎年普通の1対1じゃ無いから分かんないな。」
予選に予選があることに軽く絶望している芽衣だったが、気を取り直して開会式に出席する。開会式特有のお偉いさんからの有難い御言葉を聞き流していると、漸く競技説明が始まる。
「まず予選リーグの競技は、魔法による妨害ありの『箒』レースです。5個のグループに分かれていただき、各グループ3位までと各グループ4位の中で一番タイムが早かった16名が勝ち抜けとなっています。
続きまして決勝リーグでは、予選のタイムから4名ずつ振り分けその4名での『魔法模擬戦闘』を行っていただき、勝ち残った各1名、計4名が『魔法演舞』本戦へと進んでいただくことになります。競技説明は以上となります。皆さん頑張って下さい。」
(予選がレースで決勝が4人でのバトルロイヤルか。まあ決勝はともかく、予選は何とかなりそうだな。)
VR機器の数の関係で、各グループ順番に予選を行っていくようで、芽衣は良いのか悪いのか、第1グループに振り分けられたため、直ぐに出番となった。
色々な魔法競技に定石が存在するように、この『箒』レースにも定石は存在する。逃げ切りと追い込みの二種類である。説明すると魔法妨害を食らわないように序盤から独走を狙うか、終盤までは目立たない位置で耐え、魔法妨害を極力受けないようにしてラストスパートに賭ける型である。ただ、逃げ切りを狙う人は少ない。それは、学校の代表として来ているため、『飛行魔法』くらい殆どの選手が覚えており、普通にレースとなれば基本的に拮抗し、序盤から妨害の集中砲火を食らうと厳しいためである。
しかし芽衣は凛の資料で少しは勉強したがそう言うことは知らないため、最初から全力で行く気満々なのである。
(アレが有れば何とかなるでしょ。独走できれば妨害も怖くないし。)
「それでは『魔法演舞』県予選、第1グループのレースを開始します。」
周りの選手たちも緊張した表情で支給された、いつもの愛機とは異なる『箒』を握っていた。開始のカウントダウンが始まる。
「3、2、1、レディーゴー!」
「『飛行せよ』」
スタート合図と同時に一斉に飛行魔法を唱える選手たち。他の選手たちが周り見て、誰が最初に仕掛けるか様子を伺っていると、一気に飛び出した者が1人。芽衣であった。この瞬間、最初の標的が決定する。
「おーと、スタートダッシュを図ろうとした選手が、これは北高校の鹿島選手だ。しかしこれを見逃さない各選手たち、妨害の魔法を放つ。鹿島選手、集中砲火だ。これは逃げ切れないか。」
芽衣の飛び出しを察知して魔法を放ってくる。流石は代表選手たちであった。集中砲火に晒され逃げ場は無いと誰もが思ったその瞬間。
「『距離よ、縮め』」
芽衣が消える。他の選手たちは一瞬、魔法を受けすぎて、失格となったと考えたが違う。彼女はあの状態から避けきったのだ。
「な、なんと、鹿島選手。回避しました。今の魔法はもしかして、」
「はい。空間魔法ですね。魔法が迫ってくるプレッシャーの中で、低スペックな『箒』を用いてあれ程の精度で空間魔法を使うとは。学生のレベルではないですね。」
解説者の言う通り、芽衣は空間魔法によって回避したのだ。そして芽衣の作戦では空間魔法を使ってそのまま逃げ切る作戦であった。
レースは、スタートダッシュを決められ、空間魔法と言う飛び道具がある芽衣に追いつけないと判断した何名かの選手が、周りに妨害魔法を仕掛けだし、最早、芽衣を除いての魔法模擬戦のような状況となった。
そのため芽衣は最初以外、ピンチも無く独走状態でゴールするのであった。




