友情と憧れ
「ファンタジーらしくなってきた。嬉しいんだがちょっと怖いな。」
転生後の自分が初めて魔獣を討伐した。それは嬉しいことなのだが、些かメイリーは芽衣より好戦的すぎるきらいがある。今回は旋風狼に攻撃する隙を与えなかったため、被害がガンルーの自損のみだったが一歩間違えば倒されていた可能性もある。メイリーに少しでも攻撃が掠ればたちまち戦闘不能に追い込まれるだろう。そうすればもうどうしようも無くなっていた。
「まあ価値観の違いなんだろうけど。心臓に悪いからな。」
「何が?」
芽衣がもう1人の自分について考えていると、凛が話し掛けてくる。
「いや、まあ色々と。」
「そっか。来週末にはいよいよ『魔法演舞』の予選だもんね。あっ、それで予選に例年出やすい魔法競技の資料作ってきたよ。」
「ああ。本当に作ってきてくれたんだ。ありがとう。」
あまり魔法演舞に興味の無い芽衣を見かねた凛が「今度は私が教えてあげる」っと言って約束した資料である。
「うん。て言ってもこれ殆どお母さん作だけどね。お母さんに芽衣が『魔法演舞』に出るって話したらもう舞い上がっちゃって。張り切って作ってたよ。で、その後お母さん。「あんたももう少し頑張りなさいよ」だって。もう一言多いんだよ!」
凛の憤慨している光景が目に浮かぶようである。それが微笑ましくて笑ってしまう。
「ふふ、そうか。」
「そうだよ。ってあ、ごめん。」
「ん?…ああ、別に気にしなくていい。母さんが死んだときは流石に傷付いたが、義母さんについては特に愛着が有ったわけでもないしね。」
「そっか。良かった。」
凛は芽衣の事情を知る数少ない人物であるのだが、性格上、配慮が足りない時が多々ある。しかし芽衣としても気にされる方が鬱陶しいので、凛くらいが丁度良かったりする。
「兎に角、予選会、頑張ってね。私は応援に行くから。お母さんも職場のテレビで応援するって言ってた。」
「そうか。ありがとう。頑張らせてもらうよ。」
案外、芽衣と凛は良い友人関係を築けているのである。
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今日も今日とてステンド家の屋敷でテイルに魔法を教えているメイリー。それを伺うようにチラチラ見てくるテイル。最初はいつもの事だとスルーしてたが、流石に長い。
「テイル様、何でしょうか?」
「え、いや、何がだ?」
「いえ、いつにも増してチラチラと私を見ていますから。集中して下さい。」
そんなことを言われたテイルは顔を赤くしながら反論する。
「いつもそんなに見ていないぞ。」
「そうですか。では訂正します。今日はチラチラと私を見ていますね。どうされましたか?」
メイリーの小さな体にぐっと覗き込まれたテイルの顔はさらに紅潮する。
「え、あ、その。この前の旋風狼の討伐の報酬で冒険者ライセンスを取得したのだろう。」
「ええ、それが?」
「だから僕の魔法の講師も…」
「ああ、そういう事でしたか。止めませんよ。まだ。ティーチ様より今貴族紋を持って活躍すると、折角のテイル様やガンルーの名声が薄まるという判断で、本格的に活動するのは5歳を過ぎてからになりました。」
「そ、そうか。」
テイルは明らかにほっとした表情を見せる。
(別にテイルくらい魔法が上達したら後は独学でも学べると思うのだが。どうせ、学院でしっかり習うのだから。まあ何かあるのだろ。)
「それでは解決したところで、集中して下さいね?」
「わかった。」
テイルの色々にスルーを決め込んだメイリーであった。




