推薦の選考
今日も今日とてゲームに忙しい筈の芽依は面倒そうにため息を吐く。
「鹿島芽依! 私は貴女を認めないわ!」
「…はぁ」
何故芽依がこんな状況に巻き込まれているかと言えば、先日彼女に『WMF』出場の打診をしに来た選考委員から連絡が来た事から始まる。
選考委員からの要件は、選手選考会に来て欲しいとの事であった。前に話をした際、まるで出場が決定した口振りであったため選考会に呼ばれる事を疑問に思った芽依が尋ねると選考委員は謝罪をしてきた。
なんでも今年の『WMF』の選手選考会議は大荒れに荒れたらしい。荒れた原因は芽依であった。貴重な推薦枠を高校生に使うことに疑問を呈する声が多く上がったと言う。
曰く
「鹿島芽依の実力は評価するが、魔法競技での実績は『魔法演舞』のみである。そんな未知数な選手を使うならば此方の選手をうんぬん」
曰く
「高校生に推薦枠を使った前例は無く、ここは此方の選手をかんぬん」
要約すれば実績の無い選手を使うくらいなら、自分と懇意にしている選手に使えである。
しかし推薦枠は会長に裁量権が与えられているため、会長側も反論。会議は平行線となってしまった。そして最終的に出た結論が、芽依を『推薦枠』に相応しいか選考すると言うよく分からない結論であった。そんなのに貴重なゲーム日和を潰されるのは勘弁して欲しい芽依だが、出場することを条件に貰ったゲームを返せと言われても困るので渋々行くことになった。
もちろん芽依は知らないが、会場に集まった選手たちは皆、国内海外で実績のある選手ばかりであった。ここに凛がいれば興奮して舞い踊っていた事だろう。
しかし知名度と言う点では芽依も負けていない。先の『魔法演舞』を高校1年生で優勝したことも然ることながら、魔法の開祖である一ノ瀬博士との会談。更にはマスコミに喧嘩を売るかのごとき対応。それらがセンセーショナルに映ったのか、特に若者の支持を集めていた。
かつて魔法発祥の国として絶対的強さを誇った日本も現在は列国に押され気味である。そんな中芽依が『WMF』に出場することになれば国内の注目は集められるだろう。それを代表候補たちは望んでいない。ここ数年悔し涙を流している彼らは、結果で注目を取り戻したいのである。そのため芽依に向ける視線は自然に厳しいものになってしまう。
「歓迎されるわけ無いのは分かっていたが、特に厳しいのはあそこら辺か」
「すみません。こんな事になってしまって」
「いえ、素人が我が物顔で入り込んで来て良い顔するガチ勢はいませんから。特に直接影響がある人たちなら尚更です」
今回、芽依が出場する予定の競技は花形である『魔闘』。シンプルな1vs1での決闘である。一番注目が集まる競技の枠の1つを横取りされた気分の出場候補者たちは、他よりも一際鋭い視線を飛ばしている。
「それで、推薦枠の選考って何をするんですか?」
「代表候補との『魔闘』という話ですが詳細は…」
そんな話をしていると、選考委員の中でも特に芽依が推薦枠に選ばれるのに反対していた者が1人の選手をつれて会場に現れた。彼らは芽依を見つけると直ぐに此方に向かってきた。
「これはこれは鹿島芽依さんですね。私、選考委員の鈴木と申します。本日は御足労いただきありがとうございます」
「こんにちは」
こちらを値踏みするような視線を感じた芽依は、選考委員から視線を外し、まるで親の敵のような視線を間近で浴びせてくる女性に視線を向ける。すると
「鹿島芽依! 私は貴女を認めないわ!」
「…はぁ」
突然の認めない宣言をされるのだった。芽依の心境としては「この人は誰なんだろう」であった。




