WMF
お久しぶりです
芽依にとって『疑似転生』は娯楽である。副次的に魔法の能力が向上し、高校生No.1の魔法使いとなったがそれはあくまで結果論でしかない。芽依が現実世界でも魔法力を鍛えているのは『疑似転生』を上手くプレイするために過ぎない。
そのため、芽依は今回の話を聞いた際も当然のように首を横に振った。
「なぜですか? 今回の『WMF』に参加すれば貴女の素晴らしい魔法力を世界に知らしめることが出きるのですよ」
「興味がないから、です」
「興味ですか…」
『WMF』ワールドマジックフェスティバル。所謂、世界版『魔法演舞』である。そんな栄えある大会の選手の1人に芽依が選ばれたのだ。
とはいえ芽依に参加する意思はない。当然である。現実世界で用事があればあるほど『疑似転生』できる時間は減っていくのだ。
しかしそんなことは向こうも折り込み済みであった。『魔法演舞』優勝後の対応を見れば芽依の名誉欲や責任感につけ込むのが無意味だと分かる。そこは相手もプロである。芽依が欲している物を把握している。
「これでもですか?」
「これ! 昔、数量限定で販売された幻の『週末ファンタジー2』、こっちは初期版『龍王伝説』、他にもこんなに!」
「どうですか? 『WMF』に出場してくださるのであれば、選手の心身サポートの一環としてそれらの提供が可能ですが」
「ほう」
ここに芽依の『WMF』出場が決定したのだった。
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芽依を出場されることに成功した選考委員は、自身の長に吉報を知らせていた。
「というわけで、無事ばいしゅ、いえ、説得に成功いたしました」
「そうか。よくやってくれた」
「いえ。会長の情報がなければ説得は難しかったでしょう。ありがとうございます。それにしても鹿島芽依がよく無類のゲーム好きだと知っていましたね」
「ふふ、何、彼女のことを詳しく知る友人が…」
「女子高生のことを詳しく…変態ですね」
「違うわ!」
ドン引く選考委員に吠える会長。
「それにしても、貴重な推薦枠を彼女に使うとは思いませんでした。確かに高校生としては破格の魔法力ではありますし、貴重な空間魔法術者ですが、まだまだ荒削りな印象でした」
「まあ、成長途中であることは認めるよ。各所からの反対も大きかった。これで彼女が散々な結果であれば私も責任を取らされるだろう。それでも彼女にはそれだけの価値があるんだよ」
「そんなにも女子高生に期待を…変態ですね」
「だから違うよ!」
会長の叫び声が響くのだった。




