紅鬼
メイリーは父との会話を終え、その後すぐに王都に帰還し、依頼の報告を済ませた。
「竜ですか? 本当に?」
「一応、回収はしてあるから証拠ならある。それでも信用ならんなら依頼主に直接確認してくれ」
「わ、わかりました」
メイリーは土竜の素材の一部をカウンターに出して見せる。それを組合専属の鑑定士が確認し竜であることが確定する。王都と言えど竜程の魔獣が出る依頼はそうそうあるものではない。そのため対応してくれた受付嬢含め、ちょっとした騒ぎになってしまう。
それが収まると、少し偉めの受付嬢が引き継いで対応し出す。
「竜討伐お疲れ様です」
「どうも」
「それで、ですね。此方の竜の素材は他にもおありでしょうか?」
「ありますよ」
「それらの素材はどうなさるおつもりでしょうか? もしよろしければ当組合にお売りしていただけないでしょうか」
そう言われたメイリーは少し考える。冒険者が素材を売るとなれば真っ先に組合が候補に上がる。しかし素材が希少になればその限りではない。そういったモノは組合よりも高く買い取ってくれる場所が多く、また竜素材のように武器や防具として利用できる物は、鍛冶屋に持ってく場合もある。
ただ、メイリーとしては高く売ろうと言う思惑は無いし、装備も今の物に愛着がある。唯一持っている剣を土竜の爪や牙で作って貰うことも考えられるが、それも何本もいらない。となれば売却を躊躇う理由もない。
「別に構いませんよ」
「そ、そうですか。では買い取りカウンターの方へ…」
メイリーは気にしていないが、現在メイリーと組合の関係は良好なモノではない。それを承知している偉めの受付嬢はメイリーの対応に驚くのだった。
メイリーが竜の売買が終わり組合を後にしようとすると、見掛けない男が組合に入ってきた。赤髪の大男である。ただメイリーが知らないだけで、他の冒険者たちは既知のようで男を見て目をキラキラさせている。
「あれってまさか」
「元Sランク冒険者『紅鬼』のシドだよな」
「引退してどっかに仕えてるって聞いてたが…」
そんな会話が組合のあちこちから聞こえてくる。その会話とその元Sランクがメイリーを凝視していることを併せて考えると、少し前にテイルとした会話が思い出される。
(確か第2王子派閥の実力者が来るかも、だったかな? テイルの言い方だとそれなりの奴が来るって話だったのに、よりにもよってか)
冒険者の最高峰であるSランク。元とはいえそんな存在がそうそういるとは思えない。第2王子派閥が最高戦力を投入してきたのかもしれない。
メイリーも男を見返すと、それに気付いた彼が好戦的な笑みを浮かべながら近づいてくる。
「お前がメイリーだな?」
「はぁ、そうですが何か?」
「俺の主がお前に会って頼みたいことがあるらしい。一緒に来い」
想定通りの用件に、メイリーも想定通りの反応をしようとする。しかしそれを予想していたのか、シドはメイリーの言葉も待たず肩に掛かった大剣を抜く。
「返答はいらん。断っても力ずくだから、な!」
シドが斬り掛かる。
驚きつつも、それを避けようとするメイリー。しかし何故か身体は思うように動かないのだった。




