ラストチャンス
メイリーとリリーが昼御飯を食べ終えた頃、実家の使用人レイモンドがやって来た。用件を聞けば父がメイリーを呼んでいるとのことだ。メイリーとしても誰か来るだろうとは予想していたが、父が自分を呼ぶとは思っていなかったため面食らう。
「父さんが私を?」
「はい。御館様がメイリー様をです。ご用件は聞いてないのでご自分で聞いてくださいね」
「相変わらずのサボり魔め。帰ってもいいか?」
「い、いやいや待って下さいよ。そうなったら怒られるの俺じゃないですか」
「知るか」
と言葉では毒づくメイリーだが、レイモンドのことは内心嫌いではない。家にいた頃一番親しくしていた使用人はレイモンドである。ラカンもそれを知ってメッセンジャーにレイモンドを選んだのだろう。
結局、レイモンドの泣き落としにより実家に赴くことになるのだった。
帰って来たメイリーは従業員たちに歓迎を受けつつ会長室に向かう。部屋に入ると中にはラカンの他に敵のように睨んでくるライルの姿もあった。
「お久しぶりです父さん、ライル兄さん」
「久しぶりだねメイリー。お前の活躍はここステンド領にも届いているよ。親として誇らしいぞ」
ラカンのお褒めの言葉にライルの機嫌がどんどん悪くなっていくのが分かる。この反応を見てメイリーは何故自分が呼ばれたのかおおよそを把握した。
「ありがとうございます。…それで、それを言うために呼んだんですか?」
「な、なんだその態度は!」
「ライル! いやいやそんな事は無いよ。ただメイリーが帰って来たことが耳に入ってな。親としては顔を見せてくれないなんて寂しいなと…」
「……」
「冗談だ。メイリーは冒険者になったんだから、今の家の状況を知って家に顔を出せとは言えないからね。本題に入ろうか。今、我が商会は知っての通り厄介な事態に陥っている。それを解決するためにメイリーに頼みたいことがある」
そんな父親の言葉にメイリーは無言で返す。その態度が気に食わないのかライルの視線はどんどん鋭くなる。
「今回の件で縮小せざるを得ない幾つかの事業にメイリーの魔法を使いたい。そうすれば予定通りかそれ以上に事業を進められる。どうだ?」
メイリーは一拍置いて、質問し返す。
「父さん。それは娘に頼んでいるんですか? それとも冒険者に依頼しているんですか?」
「な、メイリー貴様!」
その返答にライルは激昂する。
「ライル!」
「おいメイリー、お前家族のピンチを助けようとは思わないのか! お前はあろうことか家族から金を…」
「ライル! 黙っていろ」
「いや父さん。言わせて…」
「ライル。私は今、お前の父ではなく商会の会長として黙れと命令している」
ライルはラカンの威圧で動きが止まった。それを悲しそうに見つめたラカンは、小さくため息をつきライルに更なる命令を下す。
「もういい。お前は仕事に戻れ」
「でも…わかったよ」
食い下がるライルだが、結局ラカンの眼力に負け部屋から退出する。
それを見届けたラカンはメイリーに向き直り頭を下げる。
「メイリー。すまないな。下手な芝居に付き合わせて」
「別に大丈夫です。それで? 父さんの判定は?」
「見た通りだ。あれでは商会の会長は務まらないよ」
ラカンがメイリーを呼び出したのはライルのラストチャンスを与えるためであった。ここでメイリーを冒険者として雇い、ミスを取り返せれば内情を知る身内は兎も角、外部からはミスをしたが人を使い取り返したように見える。
内情を知ってる人でも、身内だということでナアナアにせず、冒険者として雇うという度量を見せれば、多少は信頼を取り戻せたかもしれない。ライルはそれに気付かず、嫉妬でそのチャンスを棒に振ったのだ。
「…まあ跡継ぎに長男をというのが一番楽だったけどね。しょうがない」
ラカンは悲しそうにそう呟くのだった。




