商会の未来
ステンドとの話を終え、メイリーは姉リリーが働いているパン屋さんへ戻った。先ほど会ったときは少ししか話せなかったため、昼食を一緒に食べようと約束していた。
「パン美味しい。リリー姉さんが作ったんでしょ? 凄いな」
「店長が少しずつ教えてくれるようになってね。まだ店に出せるレベルじゃ無いけど」
「そうかな? 美味しいのに」
リリーは着々とパン屋としての道を歩き始めている。もう殆ど実家の手伝いはしていないと言う。それでもリリーの眼を頼って時々駆り出されるのだと言う。今回の話もその時に聞いたのだった。
「あの馬鹿兄は、大金を正規の金貸しじゃ無いとこから借りて法外の金利で借金が膨れ上がってるらしい」
「法外って、それなら騎士なり領主様に報告すればいいんじゃ?」
「上手くやられたんですって。多重借用だったかな?」
この世界でも額に応じて上限の金利は決まっている。金額が上昇すればその分、金利の上限は低くなる。その抜け道として少額を多重に貸すという方法が存在する。借りた合計は大金だが、一つ一つは少額のため金利は高く、結果借金がどんどん膨れ上がったのだ。
「商人の息子がそれに引っ掛かったと。確かに馬鹿だね」
「ねー」
「これは私とかリリー姉さん関係なしに跡取りから下ろされるのでは?」
「そう言う動きはあるわ。父さんのところに直談判してる人たちもいるみたい。商会の信用ががた落ちだもんね」
そしてこの問題で一番深刻なのは借金の額では無い。借金も商会の規模を多少縮小すれば良い程度である。それよりも商会の跡取りが信用ならない金貸しから金を借り、借金を作った。それにより幾つかの事業の規模が縮小。縮小した事業の中には他の商会と合同で動いていたモノもある。それが跡取りの不用意なミスで縮小する。
中だけでなく外からも跡取りの変更を望む声が出てきてもおかしくない。
「リリー姉さんにも戻ってきてって話来てるんじゃ?」
「来たよ。断ったけど。まあ本命はどう考えてもあなただけどねメイリー。それを一番自覚してるのがライル兄さんなんだよ多分」
商会の誰もがメイリーが商会に居て欲しいと考えている。しかし彼女の能力を考えれば商会の1従業員では収まらない。だからこそ商会の会長にしたいという意見が多い。
それをなまじ『暗算』を持つライルは明確に理解してしまう。だからこそ嫉妬に駆られてしまったのだ。
「メイリーなら商会もライル兄さんも助けられるけど、それをしたら商会にライル兄さんの居場所は無くなっちゃう。まあ今でもほとんど無いけど」
「はい」
「はぁー。そもそもライル兄さんこそトップが向いてないんだよ。あの人は『暗算』で計算間違いはしないけど、問題から式を導くの下手なんだもん」
ライルは『暗算』スキルに頼り正確に計算をし無駄の無い計画を立てる。そのため計画に無かった想定外の事態が起こったときに対処する余裕が無くなってしまうのだ。
結局、誰かがライルを上手く使うのが一番有効なのだ。しかしその選択はもう出来ないのだ。




