実家の危機
奇妙な依頼を終えた次の日、メイリーは一度故郷のステンド領に戻ってきていた。『ヴィルディゴ教団』の事を領主のステンドに報告するためである。組合に報告することも考えたが現在、組合とメイリーの関係はそれほど良いモノではない。下手に邪推されるのも御免であった。
また王国内で起こり、ここステンド領も被害にあった魔獣の増加現象。メイリーには『ヴィルディゴ教団』とあれの発生が無関係には思えない。何かしら関与してるのではと考えていた。
「確かにこれまでの計画書を見れば、魔獣を操っていることが判る。1支部でそれが行えるならもっと大掛かりなこともできるかもしれない。しかし『ヴィルディゴ教団』か。聞いたこともない名だ」
「そう、ですね。私も知りませんでした。ただ普通の組織では無いと思います」
「最低でも貴族、もしくは大商会くらいの後ろ楯があることは間違い無いだろう。やっている規模が大きすぎる」
今回『ヴィルディゴ教団』が行った計画が上手くいっていた場合、村に冒険者は寄り付かなかったため竜の発見は遅れ、周辺地域は食い荒らされていたことだろう。そして被害が出た後に冒険者が討伐に向かう。竜が不死身であることが知らされていなかったら、おそらくその冒険者たちは死ぬだろう。それが繰り返されれば竜が討伐される頃には街や村が荒らされ、冒険者や兵士たちも倒れ、国力は半減することだろう。
最悪こうなっていたかもしれない。仮定の話に意味は無い。しかしこうなるかもしれない計画を支部に実行させる。そんな組織がただの1集団と考えることは出来ない。
「注意と言っても難しいかもしれませんので、こんな集団がいると言うことを報告しに参りました」
「そうか。ご苦労だった。警戒だけはしておくとしよう。出来ればメイリー、君がいてくれれば安心なのだが」
「すみません。今は王都での暮らしに満足しています。…ただ近くにいる者くらいなら私の手も届きますので」
「…そうか! それならば私に万が一があっても安心だな。さてとそれでは次の話だ。君の実家のね。話は聞いているか?」
「はい」
ステンドは話を一旦打ち切り、話題を変える。それは実家の現状である。メイリーもステンドに会う前に姉のリリーに会い、ある程度のことは聞いていた。
「業績が芳しくない。正確に言うならあそこの長男が任されている事業が致命的な赤字を出している。その結果、他の事業も縮小せざるを得なくなっている」
「そのようですね」
メイリーの兄ライルは実家の商会の跡取りとして幾つかの事業を立ち上げたと言う。その一つは魔獣増加を見越して、冒険者をターゲットにしたモノであった。それはメイリーのせいで失敗に終わった。
その後もライルは失敗を繰り返したと言う。
「君やラカンには恩があるが、これ以上業績が悪化するようではお抱えのままにしておくことはできないだろう」
「それは仕方がないことです」
ライルが失敗を繰り返した理由は明白である。彼の立場は父が跡取りに指名した今でもかなり危うい。商会の従業員たちの中にメイリーやリリーを跡取りにと望む声は未だに大きい。
それを黙らせるには結果が必要であった。そのためには父の跡に沿って行くだけでは足りなかった。だから新事業の立ち上げを熱心に行ったのだ。そして父ラカンもライルの気持ちを理解していたからこそ止められなかった。
それでも今までは小さな失敗で収まっていた。ラカンがそうなるようにコントロールしていた。しかし遂にライルは暴走をしてしまう。
(リリー姉曰く「馬鹿が下衆に大金借りて大勝負に負けただけ」らしいけど。まあ概要は分かるけどね)
ラカンの目を盗み始めた新事業が失敗したのだ。それも最悪の形で。




