校長の強要
鹿島芽依という名前は各界隈に広く知られている。勿論『魔法演舞』優勝者という事での認知ではあるが、彼女の名前を知らしめた要因はその後の対応にあった。
魔法発祥の地であり魔法先進国である日本の、高校生ナンバーワンを決める大会『魔法演舞』は世界的にも注目されている。その優勝者ともなれば、長ければ一年間ほどはメディアに引っ張りだこになる。特に魔法関連の取材や番組に呼ばれるのが通例だ。それは有名な魔法大学や企業、研究所に名前を売りたい高校生にとっても、歓迎することである。
しかし芽依は優勝者インタビューでも殆ど言葉を発せず、取材にも一切応じなかった。そんな態度をマスコミは否定的な見出しで取り上げた。子どもに袖にされた記者たちはその態度を強く批判した。それでも芽依は相手にもしなかった。
芽依のマスコミに媚びない態度と『魔法演舞』で見せた圧倒的魔法力。そして可愛らしい容姿。メディアに全く出ない事が逆に視聴者の興味を引いてか、『魔法演舞』から1ヶ月以上経っても芽依への関心は高いままであった。
そして今回の騒動。世間は芽依を求めている、と言っても過言では無い。
[はい、私は今、鹿島芽依さんが通っている高校の前に来ております。学生の皆さんが次々と登校しておりますが、鹿島芽依さんの姿は未だ見えません]
学校の前にはマスコミが押し掛けており、芽依が登校する時を今か今かと待っていた。
そんな彼らを出し抜いて既に登校していた芽依は、マスコミやチラチラと様子を窺ってくるクラスメートを無視して、考え事に耽っていた。そんなとき担任の林藤が教室に入ってくる。
「お、おい鹿島?」
「…」
「鹿島!」
「…うん? ああ、なんですか?」
「なんですかってあのな。まあいい。今すぐ職員室に来てくれ。校長先生がお呼びだ」
「今忙しいので後にしてください」
「…お前の気持ちも分からないでも無いが来てくれ」
断ったのだが芽依は強引に校長室に連れていかれてしまう。校長室に入ると校長先生と教頭先生が待っていた。
「林藤くんは下がってよろしい」
「はい。失礼します」
林藤は校長の言葉を聞きすぐに退室してしまう。それを見届けた校長は芽依を厳しい目付きで睨みながら口を開く。
「さて鹿島芽依さん。あなたが今日、呼ばれた理由は分かるね?」
校長の用件は明白である。芽依が度重なる取材に応じない件であった。学校に来た取材の依頼なども全て断っているのだ。それを特に問題視しているのがこの学校の校長であった。
「何故、取材に応じないんだ!君の将来のためにもそうするべきでだろう」
「学校側にも君の態度を問題視する声が届いているんだ!」
「今までのことをちゃんと謝罪してしっかりと取材に応じるんだ! いいね!」
校長はそう捲し立てる。しかし芽依は何の反応も示さない。じっと校長たちを見つめるだけだ。そんな様子を不振に思った教頭が声をかける。
「鹿島さん?」
「……ああ、終わりましたか? ならもう戻っていいですか?」
校長の叱咤が何も響いていないことが明白である。そんな態度に先生方は呆気に取られる。
「ま、待ちなさい。まだ返事を聞いてないぞ。取材を受けるんだな!」
「そんな暇は無いのですいませんが校長先生の要望にはお応えできません。要件がそれだけなら失礼します」
そう言って芽依は、校長の制止も聞かず部屋から退出する。
生徒にそんな態度を取られた校長先生は憤慨する。それを白けた目で見る教頭。彼からすれば芽依の対応は少々過剰ではあるが、問題にするほどでは無い。取材を受ける受けないは自由であるし、それを学校側が強要する権利は無い。例え教育委員会からの要請だとしても。
「私は彼女のためを思って言って上げているのに。こうなったら…」
「校長。これ以上は」
「なに! 彼女の為を思って私自ら提案してやってる行為に何か問題があると? 大体君が彼女の真意に気付かず取材拒否などに応じるから…」
教頭はそんな事も失念している校長を憐れみの視線を向けながら、校長からの説教を聞き流すのであった。




