登校準備
一ノ瀬博士が有名人であることは芽依も知っているが、これはいささか騒ぎすぎだと感じる。芽依が外の記者たちを睨んでいると、端末から凛とは別の声が聞こえてくる。
「芽依、聞こえてる?」
「鈴さん。どうしました?」
「さっき一ノ瀬から連絡があって、芽依との会話の内容の一部がリークされたかもしれないって」
「内容? 母さんのやつですか?」
「…そうね。あれは魔法の正体の話に繋がるから、記者の中に企業スパイみたいな連中もいるかもしれない」
「へー。あんな世間話で」
世間話と呼ぶには重い話だった筈だが、芽依にとっては大したことは無い内容であった。
「あれを世間話か。そもそもあの話を聞いて帰宅した直後にゲームをできるのが信じられないけどね」
「父さんは夢のために努力してそれに母さんも死ぬほど協力したんだよーって話でしたよね?」
「はぁー。ほんと2人の娘だよ芽依は」
魔法の誕生という世紀のニュースを、その張本人の1人から聞いた感想が本当に世間話レベルである。いかに興味がないか分かるというものである。
「取り敢えず強引な取材をする連中もいるかもしれないから気をつけて。わかった?」
「はい」
「ならいいや。じゃあ」
「あ、鈴さん。最後に1つ報告を」
通話を切ろうとした鈴を芽依が止めた。
「私、母さんと同じになりましたよ。それだけです。さよなら」
通話が切れる。鈴は今の芽依の言葉を反芻する。そして先程までの魔法誕生の話と合わせて考えれば、その言葉の意味が見えてくる。
「まさか芽依も『魔臓』を? 同じになったってことは…ほんと凄いことをさらっと。流石は2人の…」
鈴はそう呟きながら懐かしそうに外を見つめるのだった。
鈴との通話を終えた芽依は、外からこっちを窺ってる記者たちを空間把握で視つつ、今後について考えていた。
芽依が空間魔法の使い手と言うことは知られているだろう。とすれば家から学校近くに転移しても、学校で待ち伏せされるかもしれない。
(学校に直接は校則違反だしな。となると光学魔法で…いやあれがあったな)
芽依が取り出したのは一昔前に流行ったホログラムを利用した変装セット。頭に被ることで顔を別人に変えられる優れものである。魔法が誕生してからは見なくなったが、触られない限りは誤魔化せるだろう。
(企業スパイとかなら魔法感知システムとか使ってくるかもしれないからな。こっちの方がバレにくいかな?)
芽依は準備を整えつつ、何故こんなことをしなければとため息を吐くのだった。




