ヴィルディゴ教団
尾行をしていたメイリーはソーマが村の外れにある、とある建物に入っていくところを確認する。その建物にはこの村に似つかわしくない程の厳重なセキュリティが魔法により施されていた。
(人払いの魔法でここを認識し難くして、登録型の生命感知と魔力感知で侵入者を発見してるのかな? 他にもあるかもしれないが…どうしようかな?)
登録した者以外が領域内に入った場合、術者に侵入を伝える魔法を二重にして展開している。かなりの警戒のしようだ。逆に言えばそこに何かあると伝えているようなものだが。
(偽装する? 流石に見ず知らずの人の生命と魔力を偽装は時間が掛かりすぎるか。…いや領域を偽装するならいけるかな?)
とある思いつきをしたメイリーは、早速作業に取り掛かるのだった。
その頃、建物内では黒衣の集団に向かってソーマが語りかけていた。
「現在、冒険者が竜と対峙している模様。ですが直ぐに敗れるでしょう。そうなれば竜がこの村に来るのも時間の問題です。後は支部長様。貴方が使役するだけでございます」
「そうか。ソーマよ、仕掛けは万全か?」
「は、『バスディ』の連中には入念に仕込んであります故、竜が来れば我先に向かっていくことでしょう。冒険者も1人を除きいない今なら使役の邪魔をされる心配もありません」
「そうか。ついにか。これで私も本部の席に座れるというものだ」
男がにやける。ソーマたちも長期の計画の成功が見えたためか顔が綻んでいる。
「やっとですね」
「そうだな。竜を使役した後に人魚を食わせれば簡単だったのだがな」
「使役の時期すら見抜く従魔鑑定がなければそれでも良かったのですが、流石に表の身分を失うのは惜しい」
「だがこれで村を襲った竜を使役した英雄として表でも裏でも私の繁栄は約束される。『ヴィルディゴ教団に栄光あれ』」
「「『ヴィルディゴ教団に栄光あれ』」」
「ふーん。ヴィルディゴ教団か。黒幕はそいつらか」
彼らは計画の成功を感心して油断していた。だからこそ計画には予想外の事象が付き物だということを失念してしまったのだ。
「誰だ!」
「それをお前たちが知る必要は無い」
「何だと! どうやってここに」
「それも、知る必要は無いな『睡魔』」
油断のあまりメイリーの接近にも気が付かなかった彼らは、抵抗する間もなく『睡魔』により眠らされてしまった。
そんな彼らを見下ろしながらメイリーは呟く。
「さて、これからどうするかな。黒幕は分かったけど証拠は無いし。まあ取り敢えず『ヴィルディゴ教団』に関する資料とか無いか探すか」
メイリーはそう言って建物内を物色しだすのだった。




