1つの終末
竜に恋人を食われた男が「俺以外に」とはおかしな文言だ。恋人が死んだことで錯乱してるとしか思えない。しかしこの言葉と今の状況を併せて考えてみると見えてくるものがある。竜の状態が狩場に入る前にクロウが食した物の効果に類似してる点だ。この現象にマーメが食われたことが関係してるのだ。
こじつけに過ぎない仮説だが、メイリーの直感がそう告げていた。
「マーメさんのスキルってなに!」
「マーメ。マーメ。マーメ…」
「『魔法使い』以外のもう1つのスキル!」
「…まーめ」
全く会話にならない。精神を安定させる魔法はあるにはあるが、先ほどの『空間断裂』の詠唱破棄での行使の代償が思ったより酷いのか魔法の発動が上手くいかない。魔力も大半を消費してしまったようであるが『自動回復』が頭痛の回復を優先させてるため思ったほど回復していない。
そんな絶望的な状況のためどうするか決めかねていると、後ろから声が聞こえてきた。
「メイリーさん!」
「ヨハンさん。はやく離脱して。時間は稼ぐから」
「分かっております。ですが今の状況を説明しなくてはと。今の竜に攻撃は無意味ですので」
「やっぱりマーメさんが?」
「っ! はい。マーメは自身の肉体を食べた者を強化するスキルを保有しておりました。それが…」
『人魚の肉』だという。メイリーは絶句した。それならばクロウがメイリーの前でソレを食おうとした時に声を荒げて止めたのも頷ける。
「最悪だな。となるとコイツが人里に現れるのも時間の問題だな。行って!」
「わかりました。ご武運を」
ヨハンの気配が消える。すぐに村に連絡が行くことだろう。それでどうにかなるとは思えないが避難する時間くらいは稼がなくてはいけない。マーメを食べて計り知れない強化をされた竜は、もう人を襲わないことなどあり得ないだろうから。
(そう考えると全てが作為的に思えてくるな。宗教団体に竜に人魚か。…うん?)
頭痛でふらふらなのに何故か頭がクリアになってく気がする。ちゃんと考えればおかしな点はいくらでもあった。特にいつものメイリーならやらないような行動を何個も取っていた。今もそうだ。なぜ見知らぬ村のために自分は命を懸けてまで行動しようとしてるのか。
「嵌められたのか。そうか…」
何が起きたのかの全容はわからない。しかしもうヨハンと約束してしまっている。やるしかないのだ。頭痛は収まらないが身体に力を入れる。
「もういいや。お前が死にたくなるまで殺してやる!」
そして後の調査でおよそ1日にも及ぶ竜と少女の壮絶な死闘が幕を開けた。
四肢が捥げる魔力も底を突き、横たわった少女の最期の言葉は
「また来世があればいいけどね」
であった。
王都を含む八都市と数えきれない村々を滅ぼした竜は『無限竜』と名付けられた。無限竜を止められる者はおらず各国が総出で事に当たっているが事態の収集は図られていない。しかしそんな被害とは裏腹に人的被害は驚くほど少なく、不死身である筈の無限竜に無数にある削り取られたような身体の傷痕とともに無限竜の解明の大きなヒントとなるのではと言われている
END【無限竜の誕生】




