奇妙な依頼主
「誕生日を買ってると言いましたか?
プレゼントではなくて?」
「違うな。奴らは教祖とやらから誕生日を買ってるんだ。まあ奴らの言い分ではお布施を受け取ってそれに応じた祝福をしてるって所だろうがな」
おかしな話だ。誕生日とは産まれた日のことを指す筈だ。売買の対象に成るものではない。メイリーの前世でもそういったことがされていた記憶は無い。
「別に何を売ろうとその人の自由だと思いますが誕生日を買ったとして意味が…あ!」
そう言いかけてメイリーは思い出す。この世界には五歳になる時に貰える人生を左右しかねない誕生日プレゼントがあるのだ。
「わかるか?奴らは自分の子供のスキルのために誕生日を買ってんだ」
「確かにそれなら分からなくもありませんが、それって効果があるんですか?」
「知らんな。だがスキルのためだったらどんなこともってやつは多いな。特にスキルで苦労したやつは子供には良いスキルをってな」
「まあ分からなくもないですが」
(私もそういう親の弱みにつけ込んだ商売をしてたからな。別にそれでどうこう言う資格はないが何となく違和感がある)
メイリーは首を傾げる。何人もの人たちが生後数ヶ月にも満たない赤ちゃんを連れて『バスディ』の教祖を囲む光景。そのからくりは理解できたのだがそれでも覚える違和感。
「わからん。まあいいか。じゃあおじさん。色々教えてくれてありがとうございます」
「いや何の何の。俺たちも迷惑してるからな。できる限りの抵抗ってやつだ気にすんな」
メイリーの違和感が晴れることはないがとりあえず依頼主の所に向かうため、情報提供してくれたおじさんにお礼を言い立ち去るのだった。
今回の依頼主はこの近辺で活動する商人であった。不思議なことに彼の本拠地はこの村ではないのだがここを集合場所に指定してきたのだが、この村の様子と『バスディ』の様子を見ればそれらが関連しているのだろうと予想がつく。メイリーと一対一で対峙するこの商人もその事を隠そうとはしていなかった。
「すみませんね。こんな辺境の地まで王都の冒険者さんをお呼び立てして。おや何か不満があるご様子で」
「不満は別にありませんよ」
「そうですか?ですが何か仰りたいことがあるのでは?」
商人はしつこく迫ってくる。メイリーはそのあからさまな態度に呆れつつもしょうがないという様子で応えることにした。
「一介の商人が討伐依頼を出す点。Bランク指定の依頼をしに来た私を見て直ぐに受け入れた点ですかね?」
「そうですか…残念ですが貴方にこの依頼はこなせないようです。どうぞお引き取りを」
どうやらメイリーの回答はお気に召さなかったようで商人は帰宅を促してくる。メイリーに喧嘩を売られたととられても不思議ではない言動。戦う力が無い筈の商人からは余裕が感じられる。メイリーはその態度に特に怒った様子は無く言われた通りに席を立つ。
「今、不満が出来たので言ってもいいですか?」
「私の査定に文句でもありましたか?」
「依頼主が不適格というなら従うまでだが、貴方に冒険者を査定する眼力があるとは思えないな。別の奴に変わった方が良い」
そう言ってメイリーは家から立ち去るのだった。
残された商人は不満げな表情を浮かべていた。
「負け惜しみだけはいっちょ前ですね。組合の査定も甘くなったものです。あれでCランクとは。私の護衛に気づかないのはさておき、この村についても言及しないとは。なあ!」
商人はため息をつく。彼の護衛は元は高ランク冒険者。全員建物内に隠れていた。中でも商人が一番信頼を寄せるヨハンは元Bランク。彼のスキル『不可視化』で常に商人の傍らに居たのだ。
「ヨハン?直ぐに組合に行って依頼を出し直してくれないか?今度はAランク相当になる程度で」
商人はメイリーを見限り別の冒険者に依頼を出そうとする。しかしヨハンからの返答が無い。
「おい、ヨハン!」
「…すみ、ませんお館様。で、ですが…」
もう一度呼び掛けると今度は何とか搾り出しような返答があった。
「ど、どうした。何が」
「おそ、らく『睡魔』です。抵抗で、き…」
「魔法?さっきの冒険者にか?お前が感知も抵抗もできずに?おい!」
信頼していた護衛が突如眠ってしまう。商人は恐怖に駆られた。冒険者を前にして余裕だったのはメイリーが幼かったこともあるが、護衛が近くにいたからであった。しかしヨハンが動けなかったのならば状況が違うのだ。
「誰か、誰か。彼女をお連れしろ!謝罪を!」
彼女がもっと短気であるならば、そうでなくとも気が変わって襲ってくる可能性もある。そんな相手を怒らせてしまったという恐怖から逃れる術は謝罪しかない。しかし返答はない
「馬鹿な。何時やられたかも不明なまま全員を…」
流石に護衛も連れずメイリーの前に立つ勇気はない商人は、その数分後目を覚ましたヨハンを連れてメイリーを探す羽目になるのだった。




