魔法と剣術
テイルが魔法を習い始めて半年間ほどは、魔力制御にも少しずつ上達していき簡単な魔法ならば不安定ながら発動できる程度になってきていたのだが、この1ヶ月ほど一転して成長の兆しが見えず停滞気味であった。とは言え今テイルがやろうとしている技術は貴族たちや有力な家の者たちが12歳になってから通う学院で、習うようなモノであり、間違っても5歳児のテイルに教えるようなモノでは無いのだ。
しかし前世の知識を頼りに魔法を習得しているメイリーには、それがわからないのだ。更に言えばテイルが調子を崩している間にも、メイリーはどんどん技術が上がっているので自分の不出来さをもろに感じてしまい、テイルは魔法を習いたく無いと言い出してしまう。
「僕は魔法よりも剣の方が得意だし、魔法は頑張っても全然使えるようにならないし。もういい。」
「そうですか。まあそれならそれで仕方ないですね。まあでも魔法であっても、剣であっても努力を継続するからこそ、上達するんですよ。」
「うるさい。天才なメイリーなんかに僕の気持ちなんてわかんないよ!」
「そうですね。わかりませんね。でも示すことは出来ます。そうですね…折角ですしテイル様の剣の講師の方と勝負させてくれませんか?そうすれば少しは魔法を続ける気に出来ると思いますよ?」
と言う話が領主まで伝わり急遽、魔法講師であるメイリーと、剣術の指南役であるこの領地一番の騎士、ガンルーの模擬戦が行われる事となった。ルールはガンルーが訓練用の模擬剣を使う以外、何でもありだったがメイリーがもう1つルールの追加を提案する。それが攻撃魔法の使用は禁止であった。ガンルーは魔法を使えないのでこのルール変更は一方的にメイリーが不利になるが、
「この模擬戦は魔法の授業の一環なので、今現時点でテイル様が使えない攻撃魔法を使う意味はないでしょう?」
と言う事で攻撃魔法無しで模擬戦が行われる事となった。この時点でガンルーの怒りは頂点に達していた。誇り高き時期領主の指南役の立場に就いたら、年端もいかない少女と同格に扱われ、模擬戦をさせられたかと思ったら攻撃魔法を使わないなど、舐められているとしか思えない仕打ちを受けたガンルーは、相手が2歳にも満たない少女であることも頭に無く、叩きのめすことのみを考えていた。
「それでは魔法講師、メイリー対剣術指南役、ガンルーの模擬戦。始め!」
「はぁーーー!」
開始直後に仕掛けてくるガンルー。領地一番の騎士は、流石の速さで突進してくる。
「『浮け』そして『剣よ駆けろ』」
浮遊魔法によりメイリーの手持ちの模擬剣が浮遊する。そして剣はそのまま意思を持ったかのように動き出す。しかしそんなことお構いなしに突撃してくるガンルーの剣がメイリーに迫る。
「『防げ、風楯』」
その剣を風の楯でギリギリ防ぐ。渾身のイチゲキが防がれ多少体勢を崩すガンルーに、メイリーの飛剣が迫る。しかしガンルーはこれを剣でいなす。
「単調な攻めだ。この程度で一本を取れると思ったか!」
再度ガンルーは攻撃に転じる。それを見計らいメイリーが魔法を発動する。再び防御魔法かと思われたが違った。
「『浮け』」
ガンルーだけでなく殆どの者たちが見ているメイリーの移動手段、浮遊魔法。今度は防ぐのでは無く躱そうとしていると、瞬時に察知したガンルーは回避するであろう方向に剣を振るおうとした。しかし出来なかった。
「なっ?」
「残念ですね。『疾くなれ、重くなれ』」
いきなり体が宙に浮き、対処できないガンルーに向かって加重魔法と移動魔法を重ね掛けられた模擬剣が直撃する。流石に鍛えているため大したダメージでは無いが、綺麗に一本を取られたガンルーの負けという形で模擬戦は終了した。
模擬戦を終えたメイリーは自身の指南役の敗北に呆然としているテイルに話しかける。
「これらの魔法はもう少し魔力制御が出来れば扱える魔法です。前も言いましたが魔力制御は努力で上達しますが、魔法のイメージ力は中々難しいのです。貴方には才能がありますよ。」
「本当か?」
「ええ。」
この模擬戦以降、テイルは魔法の勉学により取り組むようになり、6歳になる頃には幾つもの魔法を扱い、『神童』と呼ばれることとなる。




