博士と会談
『魔力解放』これは『魔力循環』と異なり体内だけでなく体外にも魔力を放出させることでさらに身体能力を上昇させる魔法である。魔力効率が悪いこともあり最後の悪あがきの手段としてあっちの世界で広まっている。
しかしこちらの世界では魔法として感知されることの無い技法である。この世界の魔法は『箒』から発動されたモノ以外の現象を魔法と呼ばない。そのため魔法の感知や魔法の妨害なども『箒』を起点としたものがほとんどである。そのため芽依的には魔法の一種である『魔力解放』を使っても会場中に張り巡らされている『魔法感知センサー』が反応することもなく数人の魔法使いが魔法が発動したと警戒し、感知されないため勘違いだと考え直す程度なのであった。
(これに気づいた上で魔法だと考える人は魔力、少なくとも『箒』以外の魔法について知ってるだろう。確証はこれといって無いが)
芽依は一ノ瀬博士をじっと見つめる。少しの変化も見逃さないように。すると一ノ瀬博士は少し驚いた表情をしじっと此方を見つめ返し、何かに思い至ったような表情を浮かべすっと真顔に戻る。そして
「魔法とは何かだったね。私たちも魔法の全てを解明したわけでは無いが出来る限り丁寧に説明し直してみよう」
芽依の質問の意図とは違う魔法についてを出来の悪い生徒に教えるように優しく語り始めるのだった。
芽依以外にも多くの質問が出た質疑応答の後、一ノ瀬グループの開発魔法や商品の話をし、彼の講演は終了した。一応これで今日予定されていた芽依の予定は全て消化した。さっそく帰ろうと係の人に預けていた荷物の場所を聞こうと辺りを見渡すと、今日一日芽依の案内をしてくれた人とは違う人が近づいてきた。
「鹿島…芽依様でございますね?」
「はい」
「一ノ瀬様が少しお話したいとのことですのでご案内させていただきます」
「えーと、その」
「こちらでございます」
「…はい」
有無を言わさぬといった係の人の態度で何となく理解した芽依は黙って着いていくことにした。案内されたのは控え室。中には当たり前だが一ノ瀬博士が座っていた。芽依だけが通される。
「こんにちは。芽依ちゃんだよね?久しぶり…って言ってもわからないか」
「いえ、お久しぶりです。記憶にはありませんが父から話は伺ってます。あと鈴さんからも」
「…ああ、天童さんか。彼女から私の話が出たのかい?彼女には嫌われていると思うんだが」
彼は少し悲しそうに呟く。
「この前、学会に行くことを話したら渋々話してくれましたよ。知りませんでしたよ鈴さんも同じ大学だったんですね。まあ確かに母と親友だった鈴さんなら不思議じゃないですが。それで、私は何のために呼ばれたんですか?まさか昔を懐かしむために呼ばれた訳では無いですよね?」
「…ふふ。いや失礼。まあ本題はさっきの質問についてだけどね。魔法とは。ただ私も君が辿り着いていること以上のことを語るのは難しくてね」
博士は何のことは無いように魔力を感知したことを白状する。その上で
「だから話そうと思うんだ。研究所の皆が、そして鹿島、君の父や天童さんがひた隠しにしてくれている私たちの、いや私の失敗談を。君には知る権利があるから」
真面目な顔でそう言った。




