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疑似転生記  作者: 和ふー
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お手柔らかな対処

本日のメイリーは中型魔獣の群れの討伐というそれなりにハードな依頼をこなした後、組合に報告に来ていた。いつも通り討伐証明部位を提示して報酬を受け取り帰ろうとしたところ、受付カウンターの後ろから出てきた別の受付嬢に呼び止められる。


「メイリーさんですよね?」

「はい」

「貴女に指名依頼が来ています」

「指名…神聖魔法関係ですか?」

「いえ、護衛の依頼だそうです。依頼主はポルワンナ侯爵で依頼内容はある高貴な身分の御方の護衛とのことです」

「お断りします」


(これがテイルが言ってたのか?それとも第1王子の人たちが先んじて、まあとにかく今の私に神聖魔法以外で指名依頼が来るとしたらそこだろう。つまり拒否安定だな)


「貴族のそれも侯爵様からの指名依頼ですよ!」

「誰からの依頼でも冒険者は依頼を拒否する権限がありますよ」

「それは…建前上はそうですね。お子様の貴女はよく指名依頼を断るようですが、それらは結局強制依頼となるだけです。指名依頼のときに受けた方が報酬も良くて得だと思いますが?」

「…強制依頼になったらまた言ってください」


そう言って立ち去っていった。確かに冒険者は自由であるというのは建前である。組合は絶対的手段として強制依頼を出すことが出来るからだ。ただメイリーとしては強制依頼であっても受けるか受けないかの権限は冒険者にあると考えている。本当に受けたくない依頼であれば最悪冒険者としての身分を剥奪されようとも拒否するだろう。

そして組合もそういうことが分かっているからおいそれと冒険者が嫌がる貴族関係の依頼を強制依頼には出来ない。それをして得られるのは貴族からの有難い御言葉と高ランク冒険者からの反感であり、最悪保有する戦力を失う可能性もあるのだから。つまり普通の冒険者にとっては建前であっても高ランク冒険者になっていくほどそういうことは建前じゃなくなるのだ。


ただこういう理屈が分かっていないのか、分かっていて無視しているのかそれらに腹を立てて自ら強制的に依頼を受けさせようとしてくる輩もいる。今回の依頼主のように。


(前に2人、後ろに4人か。前2人は騎士さんか?国家騎士のような格好してるが…あれと戦ってる間に後ろからって感じか。確かに厄介なんだが…逃げる訳にはいかないしな)


空間魔法を使っての逃走は可能だろうが、逃げた所で相手はメイリーの家を知っている筈だ。そうなると最悪なことに家まで押し掛けてくることも考えられる。その時にメイリーが家に居れば良いがもし居なければシルキーたちが出迎えることになるだろう。手加減が苦手な。


「おいそこのお前!」

「はい?」

「少し話を聞きたい。詰所まで来てもらうぞ」


(良かった話しかけてきたな。これなら話が早い)


メイリーは表情には出さなかったが安堵する。ここからの流れは単純であった。


「えーと何かあったんですか?」

「お前が知る必要は無いことだ取り敢えず一緒に…」

「それは貴方たちが国家騎士のふりをしていることと関係がありますか?」

「なっ!」


ここは王都なのだからここの治安を維持しているのは王族に使える国家騎士や兵士だろう。もし何らかの事情で他の貴族の騎士が手を貸しているとしたらかなりの緊急時だ。つまり国家騎士も総動員された上で手が足りないから他の貴族に手を借りる筈だ。街の様子からはそんな気配は欠片もない。


「私たちが身分を偽っている無法者だと…」

「もういいだろ。正体がバレたとしてもどのみち同じことだ、ろ!」


もう1人の騎士が突進してきた。それと連携してか後ろの4人も動き出した。しかし空間把握により彼らの動きは手に取るように分かっている。騎士の攻撃を流しているとタイミングを見計らっているようだ。なので隙をわざと見せて誘ってみる。


「うわっ」

「貰った!」

「と、見せ掛けて『封じろ、土縛棺』『捕らえろ、土枷』」

「っ!」


上手くいったようで1人の騎士を土縛棺で後ろの4人を土枷で捕らえられた。彼らでは即座にこれを外すのは無理だろう。その隙に捕まえた者たちの意識を奪っておく。


「『寒い眠い、意識を手放せ、凍眠』」

「な、き、貴様!こんなことが許されると思っているのか!」

「国家騎士を名乗る偽物が暗殺者と共闘して襲い掛かってきたのに、慈悲を掛けて眠らせてやった。許されるかという問いは私がお前にするものだ」

「く、くそ!」


分が悪いと判断したのか仲間を置いて逃げ出す騎士さん。


(逃げられても構わないが、また来られても面倒だし対処しておくか)


逃げ出した騎士さんは『雷撃』により気絶させ、彼らを詰所に持っていった。国家騎士に成り済ますのは重罪であるため、彼らの雇い主であるポルワンナ侯爵にも捜査の手が延びるだろう。これでメイリーには束の間の安穏が訪れたのだった。



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