テイルとの密談 後
テイルの説明を要約すると第1王子の側近に成れなかった者たちが主な支援者である第2王子リュートの派閥は、圧倒的に軍事力という面で劣っているらしい。その差を埋めるため相手の支援団体と化している冒険者組合の切り崩しが急務である。しかしそもそも組合は中立の組織であり元とはいえ統括組合長が支援しているということが例外中の例外である。そのためそれに対抗するにはそれなりの例外を用いなければ話にならないのだ。
「それで私に白羽の矢が立つのですか。よく分かりませんが」
「それほど神聖魔法を使える冒険者が、というかそもそも神聖魔法を使える者自体が稀少なんだろう。それくらい戦力不足ということでもある。この前の依頼のときにお前に突っ掛かってた護衛の連中いるだろ?」
「はい。いましたね」
「あれでもリュートの陣営の中では強い部類なんだぞ」
その言葉にはメイリーは何も言えなくなる。メイリーもそこまで詳細に覚えている訳では無いが『鑑定眼』で視た限りこれで王族の護衛が務まるのかと思った程度の強さだった筈だ。
そんなメイリーの驚きに共感していたのかテイルがうんうんと頷きながらもフォローを入れてくる。
「確かに弱いんだが、宝竜や雷虎を単独で狩るようなやつの目線から見れば大抵の者が弱くなるだろう。あれでもDランクの冒険者以上の強さはあるぞ」
「Dランク」
Dランクと言うとこの王都の冒険者組合で交流のある『悠久の風』のリーダーのアレンなどもDランクである。それを考えるとやはり弱い。
「まあ深刻な戦力不足であることは理解しました。それでテイル様は何のために呼び出しを?先んじて私を勧誘でもするつもりですか?」
メイリーとしてはそれは無いだろうと考えつつも問いかける。すると案の定、テイルは心外だという表情でメイリーを見てくる。
「俺が?何でそんなことをしなくちゃならん」
「テイル様はリュート様の派閥なのですよね?」
「…俺個人としてリュートに協力はしてるが、別に俺はリュートを王様にして利益を貪ろうとしてる訳じゃない。こんな下らない権力争いに俺の大切なメ…師匠を関わらせたくはない」
テイルは顔を赤らめながらも真剣に語る。テイルとしては宝竜など強敵と戦える依頼を出すのは許容できても、見栄を張るためにメイリーを利用するのは許せないようなのだ。
「…じゃあ今日呼び出したのは何のためなんですか?第2王子派閥の弱小さを嘆きにでも?」
「まあそれも関係してる。多分1週間もしないうちに連中が接触してくると思う。組合を通しての依頼か通さない非正規の依頼かはわからないが」
「はい」
「それを断るのはいいんだが、断ると強制的に従わせようとしてくると思う。あいつらは無駄にプライドが高いから。返り討ちにするのは良いが再起不能にはしないでくれ」
「…はい?」
「多分それなりに強い奴らが依頼を頼みに行くと思う。そいつらが再起不能になると本当にヤバいから」
テイルの中でどういう立ち位置にいるのか無性に問い質したくなるメイリーだが、何とか堪える。思い返して見れば此方に襲い掛かってきた輩を再起不能にしたことはそれなりにあるのでテイルの心配もあながちしすぎとは言えない。
「分かりました。適当に追い返せば良いのですね?」
「そうしてくれ。…話は変わるが神聖魔法と不吉な鼠に放ったという極大魔法について…」
権力争いという不穏な話題を終えた2人は、いつも通り師弟のような、友人のような不思議な距離感に戻るのだった。




