父親の可能性
「それでB級ライセンスとVRヘッドギアに釣られて学会の特別招待を了承したんだ。芽依らしいね」
「まあリスクとリターンを比べたらリターンの方が勝ったんだよ」
「あの魔法学会への参加をリスクとか言っちゃう当たりがね」
そうやってため息を吐く凛に対して芽依は反論を試みようと考えるが、弁明の余地は無いため黙っていることにするのだった。
「でも本当に今年の魔法学会は凄いんだよ。特に魔法開発の祖である一ノ瀬博士の息子、一ノ瀬潤現一ノ瀬魔法研究所所長の講演が予定されてるから学会へのチケットなんてプレミア物だよ?あっでも…芽依は一ノ瀬さんと会ったことあるんだっけ?」
「まあ物心つく前だけどね。確か父さんと大学の研究室が同じだったって話だけど、父さんこの当時の話あんまりしたがらないからよく知らんし」
というよりも芽依も父親についてそこまで詳しく知っていない。知っていることと言えばゲーム等のプログラム関連で天才的な腕があることと、無類のファンタジー好きということくらいである。仲は良かったが仕事人間であったし実の母が亡くなってからは特にその傾向が強かった。
「確かおじさんの大学って一ノ瀬博士が教授をしてた学校だよね。それで一ノ瀬さんとも知り合いでしょ?もしかしたら『箒』開発の時に参加した公表されていない助手の1人なんてこともあり得るかもね!」
「……」
「なにその間は?冗談だよ冗談」
(まあ開発メンバーってのは普通に考えてあり得ないな。『箒』が開発されたのはまだ父さんが大学生の時の筈だし。でも何らかの繋がりは感じる。流石に1からあのゲームを作ったにしては魔法の構造を理解しすぎている気は前からしてたし。そう考えると私って本当に父さんのこと知らないんだな)
前から感じていた違和感もあり、凛の荒唐無稽な話を笑い飛ばす気にもなれず、黙って話を合わせる芽依であった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
多くの冒険者たちの前で神聖魔法を披露したメイリーの噂はこのままでは冒険者だけでなく一般大衆にも広まってしまう。そのため組合の方で神聖魔法の件について箝口令を敷いた。それでもどこからか広まった噂を聞いてメイリーに神聖魔法を使って欲しいという指名依頼が届けられるようになった。通常ならBランク冒険者であるメイリーに指名依頼をするためにはそれ相応の依頼料が必要となるが教会に神聖魔法を頼もうとすればそれ以上の御布施をしなければならないため、こうなることは必然とも言えた。
「今は指名依頼の数はまだ少ないですが、神聖魔法を使える冒険者というのはおそらく殆ど存在しないはずです。今はまだ一般人からの依頼しかありませんがもしこれ以上噂が広まれば貴族や王族からの指名依頼もあり得るかもしれません」
「…でも指名依頼って断ることも可能ですよね?」
「建前上はそうですけど流石に貴族や王族ともなると。それにもし断っても強制依頼になる場合もあります。神聖魔法が絡んでますしもしかすれば組合長よりも上からの強制依頼の乱発なんてことも考えられます」
回復魔法や神聖魔法は昔から教会側が独占してきた。しかし組合からすればメイリーの存在はこの状況を打破できるかもしれない希望である。そのため本来ならあり得ない強制依頼の乱発を使ってでも、神聖魔法という手札を周囲に知らしめたいと考える者たちがいるかもしれない。
メイリーはこの状況にただただ煩わしそうに顔をしかめるのであった。




