逆転の現象
「貴族に目を付けられるルートはメリットは大きいが、派閥争いとか戦争に巻き込まれるリスクが大きいな。まあいざとなったら逃げ出せばいいが。まあこんなこと考えても無駄なんだが。」
前世、つまり現実世界の記憶はゲーム内に持ち込めないため、今までのやってきたゲームの攻略とは異なり難しい。
「貴族のお抱えとかになっちゃったら旅も出来ないしな。旅か。『空間魔法』とか『創世魔法』とか習得できれば便利なんだか、あれって高等魔法だしな。」
結局ゲームの事を考えてしまう芽衣。そうしていると凛が近づいてくる。
「芽衣、何してるの?」
「ん?ああ、今やってるゲームで『空間魔法』とかの高等魔法を習得した方が楽にプレイ出来るから、どうやって覚えようか考えてる。」
「えーと、流石は芽衣だね。普通逆なのに。」
「なにが?」
「普通、現実で魔法使うためにゲームで魔法を習得するのに、芽衣はゲームのために現実で魔法を習得しようとしてるんでしょ。それで私達より成績良いんだから。私なんてこの前の飛行技能落ちたせいで、家庭教師の時間増やされたのに。」
「それは知らないけど。まあゲームでも魔法は使うから。」
今や純粋にVRゲームを楽しむ人口は下降の一途を辿っており、VRゲームは勉強ツールの1つとなって久しい世の中で、純粋に楽しんでいる芽衣の魔法技能が向上するというのは皮肉が効いている。
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メイリーの講師生活は最初は1週間に1日程度であったが、その頻度は徐々に増えていき、半年を過ぎる頃には週3となっていた。更に講師の日で無くとも領主の屋敷への出入りが、自由に出来るためよく読書をしに訪れていた。最初のうちは、メイリー一人で行かせるのは危ないとして、使用人も同行していたが、魔法もそれなりに使えるようになり、鍛えてる甲斐もあり動けるようになってきたメイリーに、ただの使用人の護衛など不必要になってきた。
そもそもメイリーの屋敷と領主の屋敷はそこまで離れておらず、そのため今では一人で訪問するようになっていた。
「前も言いましたが、魔力の制御が甘いので魔法の発動も不安定になっているのです。基本ですよ?」
「そう言ってもまだ半年だぞ。魔法を習い始めて半年なら凄い成長速度だって皆、言っていたぞ。」
「はぁ。私は魔力制御をマスターするのに1ヶ月程でしたよ?」
「それはメイリーがおかしいのだ。」
「そうですか?まあでもテイル様は発動に重要なイメージ力は備わっていますよ。これで魔力制御が出来ればちゃんと魔法が使えるようになります。」
「そ、そうか。それとメイリー。僕のことはテイルでいいといつも言っているだろう?」
「そうですか。テイル様。」
この半年で随分と距離を詰めたメイリーとテイルであったが、これはメイリーにとっては不可思議である。
(何かこの子供との距離が近い気がするな。何故が敬称をとるように言ってくるし。罠か?)
メイリーはテイルに懐かれていることにまだ気付いていないのだった。




