優れてた誤算
反応は劇的であった。回復魔法では治せない程の重傷を簡単に治して見せたメイリー。その姿はまさに聖女と呼ばれるに相応しい。周りで見ていた者たちだけでなく、彼女に傷を負わされたカルトさえもメイリーを見る目が、侮蔑から崇敬に変わっていた。これだけでも神聖魔法の凄さが窺える。
勝敗は決した。さらにはこれにより話を打ち切る大義名分ができたメイリーは呆然と見つめてくるカルトに喋りかける。
「まだやりますか?」
「い、いえ。降参します。どうかお許しを」
すぐに頭を下げるカルトから視線を外し、もう一人の護衛とリルーシュに視線を向けると彼らも頭を下げる。
「冒険者やってたらこれくらいの喧嘩はまあ、あるから大事にするつもりもない。でもゼフ教とやらに力を尽くす気もないから話はここまでってことでいい?」
「し、しかし…」
「しかし、なに?」
「いえ。今日は帰らせて頂きます。私の護衛が貴方に無礼を働いたこと心よりお詫び申し上げます。それでは」
教会としてもいち宗教家としても神聖魔法の使い手を野放しにはしておけないリルーシュだが、今は状勢がかなり悪い。ここが冒険者組合で無ければもう少し遣り様はあるのだが、これ以上ここで揉め事を大きくすれば自分たちだけの責任では済まなくなるので一時撤退を余儀なくされるのだった。
(今日は?これだけのことをやって来てまだ勧誘する気なんだ。やっぱり宗教家は好きになれないな)
帰っていく神官たちを見ながらそっとため息を吐くメイリーであった。
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新たな魔力の使い道の発見に芽依は嬉しさと同時に悲しさも滲ませていた。実年齢十歳の自分が神聖魔法のカラクリに気が付いたのに、自分は思い付けなかったのだ。とはいえこれで魔力を鍛える理由がまた1つ増えたので今日も『魔力炉』や『魔力庫』の発動を目指して修練する芽依。ゲーム中に神聖魔法の練習で何度も『魔力炉』を発動させていたためか、何となく感覚を掴んでいた。
(魔力を燃やして増やすイメージをしっかり持って詠唱)
「『燃えよ燃えろ、炉に魔力を』」
(あれ?発動でき、ってやば!)
感覚に任せて魔法の発動練習をしていた芽依は、『魔力炉』の発動に成功してしまった。
『魔力炉』を発動させた場合まずエネルギー源となる魔力とは別に魔力炉を制御する魔力が必要となる。それが不足すれば魔力炉は基本的に動かない。そのため芽依の目算では元々ゲームの魔法を実現化するのには多くの時間が掛かるだろうし、もし発動できるようになる頃には多少は魔力が増えている。また魔力が増えていなければ魔力炉を制御する魔力が捻出できないため、魔力炉が動かせないので暴走の心配は無いだろうと考えていた。
ここで誤算だったのは1つ。芽依が自分の想定よりも優れていたことであった。本来異世界の魔法の再現にはもっと時間が掛かる筈であるし、発動ができたとしても芽依の微々たる魔力では稼働すら儘ならない筈なのだ。しかし芽依は自分が思っていたよりも魔法的センス、特に魔法制御や魔力制御に優れていたのだ。それこそこの世界の人々が気づかないほど微々たる魔力で高等魔法を発動し制御するくらいには。
(や、魔力が吸われる。というかこのままだとすぐ…うぅ)
とはいえいくら芽依が天才であっても魔力不足はどうにもならない。『魔力炉』を止めることもできず即魔力を使いきり魔力枯渇になり意識を失いかけ倒れる瞬間、追い打ちに『魔力炉』から少量の魔力を供給され魔力過多で昏倒する。
魔力炉に供給された些細な魔力からは本当に少量の魔力しか生み出されない。それでも今の芽依には多すぎたのであった。




