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疑似転生記  作者: 和ふー
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神聖魔法の構造Ⅱ

激情に任せて斬りかかったカルトだが、その最中にはすぐに自身の失敗を悟っていた。護衛という自身の役割を越えた行為であるし、ここは多少の無理が通る教会ではない。カルトの現状で最悪なのはメイリーに致命傷を与えること。次点で今すぐ止まり謝罪することである。致命傷を与えることは言わずもがなであるが、中途半端に斬りかかった上で謝罪をしてしまえば、こちらの要求を断る口実を与えてしまう。この現状ではこの暴挙を脅しに使い交渉を有利に進めるしかない。


(完全に魔法職。ならこの攻撃に反応できないか、できても距離を取る。ならばこのまま斬りかかり動かなければ寸止め、距離を取ったら薄皮くらいは許容でおもいっきり)


カルトは覚悟を決める。しかしここで思いも寄らない事態となる。メイリーはしっかりと反応をした。それだけなら想定内だが彼女は距離を取るどころか距離を詰めてきたのだ。一番あり得ない行動に思わず剣を握る手に力が入る。


(まずい!)


もともと寸止めしようとしていた剣の軌道上にメイリーが来る。そこに余計な力が入ってしまったため寸止めなどできる筈もなく、メイリーの肩を深々と斬り込む。組合内は騒然としだす。そのような事態に慣れていないリルーシュなどは顔面蒼白である。

それに焦ったカルトは直ぐに剣を抜こうとする。しかしその瞬間、メイリーが左手で剣を掴む。理解不能な出来事の連続で思考を停止しかけるカルト。するとメイリーが残った右手をカルトに向け詠唱する。


「『炎槍よ、穿て』」


超至近距離で放たれた炎槍。しかも持っている剣を捕まれて動けない状態では避けれない。普段のカルトなら手を向けられ段階で魔法を警戒して剣を離して回避行動を取っただろう。しかし混乱中のカルトにその判断はできない。そのためメイリーが斬られたのと同じ右肩が焼き抉られたのだ。


「あ゛ぁあぁぁ」


カルトが堪らず叫び声を上げる。辺りは悲鳴が飛び交う。しかしメイリーは内心、激痛に耐えながらも冷酷な眼で叫ぶカルトを見つつ肩にある剣を抜き捨てる。


(あぁ痛い。でもこの傷じゃ『自動回復』も直ぐには…いや、そうか)


メイリー何かに気づいた様子で魔法を唱え出す。普通の術者ならば激痛に耐えながら魔法を発動する何てことは中々できることではない。しかしメイリーは『自動回復』を十全に活かすため痛みに慣れる訓練を積んでいる。そのためどんな状態でも魔法を発動することが可能となっている。

メイリーが発動した魔法は単純なものであった。スキルの強化である。


「『治れ』」


この魔法によりメイリーの肩の斬り傷はみるみると治っていく。本来ならば重症度が高い傷を治すにはいくら『自動回復』であっても時間が掛かる。しかしそれを魔法で強化すれば話は別である。そんな様子にリルーシュや回りで見ていた冒険者は息を飲む

今までメイリーは回復という魔法を特別視しすぎていた。それは前世にはそういった魔法が殆ど存在しなかったからである。しかし何となく神聖魔法と呼ばれる物の論理が理解できた。


(前世に回復魔法はあった。けどそれはかすり傷を治す程度でこの世界みたいに部位欠損を治すような魔法は存在しない。それはやっぱり魔力の有無が関係してるんだろ)


回復魔法の構造は発酵魔法に似ている。発酵魔法は菌の作用を強化することで発酵を早める魔法である。これと同様に回復魔法は細胞の働きを活発にさせ治癒力を上昇させる魔法と言える。しかしここで問題が発生する。菌や細胞の働きを活発にするためにはそれ相応のエネルギーが必要となる。働くだけ働かせといてエネルギーが無ければ餓死するだろう。

かすり傷を治す程度ならば多少、生命力が低下するだけでも、腕一本生やそうとすれば腕が生えたが、生命力が枯渇して衰弱死しましたなどのなんとも笑えないオチになりかねない。ではどうするのかと言えば患者の生命力をエネルギーとするのではなく他の物で代替する必要がある。それが魔力なのだろう。


(あの神官が言ってた聖なる息吹きは多分、魔力を生命力に替えるときに出る何かだと考えられる。まあ違っても別にいいか)


「『燃えよ燃えろ、炉に魔力を』」


メイリーは『魔力炉』を発動し、作った魔力をどんどんと生命力に変えるイメージで消費していく。自身の魔力がどんどん無くなっていく感覚に焦りを覚えるが徐々にイメージが固まってくる。すると聖なる息吹きと呼ぶに相応しい感じにメイリーの回りが輝き出す。


(これをエネルギーとして回復させるっと)


「『聖なる光よ、この者の傷を癒せ』」


今も床を転げ回っているカルトに向かって魔法を発動させるメイリー。実験台として、失敗してもあまり気にしない存在はちょうどいいのだ。そんなかなりブラックな考えとは裏腹にメイリーが初めて発動させた神聖魔法『聖光』は焼き爛れたカルトの肩を癒すのであった。

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