創造神の寵児
冒険者組合にいるには似合わない格好の男。その姿は『豊穣の儀』などで見た聖職者に似ていたが、さらに格式高く豪華な衣装に身を包みかなり高位の地位にいることが予想される。またよく見るとその男の後ろにはしっかりと武装した男が2名後ろを固めていた。どちらも冒険者のランクでBランク以上に相当しそうな実力者でありこの事からもこの男の身分の高さが窺える。
(何か胡散臭い男だな。護衛は私を警戒してて何時でも武器が抜けるくらいだし、というか敵意満々って感じ。でもな…)
神官風の男とは対照的に護衛の男たちはメイリーに敵意を抱いている様子である。しかしこの距離は接近戦の距離であり、魔法職のメイリーでは何かされれば手も足も出ないだろう。とりあえず魔力制御していつでも魔法を発動できる状態を準備しつつ返答する。
「えーと、どちら様ですか?」
場の雰囲気が凍りつく。ということはこの人物はかなりの大物であるということになる。敵意のレベルが跳ね上がった護衛たちと、それほどではないが十歳の少女にも悟られるくらいには気分を害した神官。しかしすぐに表情だけ元に戻し取り繕う。
「そうですか。残念ですが仕方の無いことですね。私はゼフ教の王都支部の神官長を勤めさせて頂いておりますセイト・リルーシュでございます」
神官長という言葉に聞き覚えの無いメイリーは疑問符を浮かべるが、特に興味もないためスルーする。神官長とは各地にある教会それぞれのトップのことであり、王都の神官長であれば現場の総元締めであり、教会本部で胡座をかいている上層部よりも実質的な権限を持つ。彼は役職こそ司祭であるが宗教関係者で知らない人はいないほどの重要人物と言える。しかしメイリーには関係ないのだが。
「それでそんな人が私に何か用でも?」
「なっ、貴様この御方に!」
「いえ、カルト君。大丈夫ですよ。すいません。用件を言うのが遅れてしまいました。私が今日、ここに来たのは貴方をゼフ様の信者に迎え入れて差し上げるためにございます」
「迎え入れる?」
「ええ、貴方こそ創造神ゼフがこの波乱の世に授けた天恵なのです。貴方がゼフ教でその力を使うことこそが運命なのです」
「はあ、そうですか」
怒れる護衛を制して放った言葉が意味不明な理屈であり呆れるメイリー。前世では宗教が自由な国で育ったメイリーは、別に無神論者というわけではないが特に信仰している神もいなかった。神様によって転生したとしても別に不思議ではないので、天恵だと言われるのは別に構わないのだが、それが何故ゼフとかいう神だと分かるのか、メイリーにはそれが理解できなかった。
「私がその創造神によって授けられたとか言ってましたけど、何か根拠が?」
「根拠と申されましても、このように世界のために尽力して頂ける神はゼフ様しかいらっしゃらないとしか…」
「いえ、セイト様。根拠ならあるさ。貴様のような子供がかの宝剣を所持していることこそ、何よりの根拠であろう!」
カルトと呼ばれた護衛の一人がメイリーの所持してる剣の1つを見ながら叫ぶ。宝剣とは宝竜の迷宮でボス討伐を繰り返しているときにドロップした品である。確かに普通よりも優れた剣であるがこれこそが根拠だと言われると意味が分からない。
「何!これがかの有名な宝剣ですか」
「貴様がゼフ様の寵児であるためその宝剣を授けられたのだ。聖剣などの創造はゼフ様の権限であるからな。違うか!」
つまりメイリーのような少女が教会が聖剣認定している宝剣を所持しているのはおかしい。そのため創造神の権限で宝剣を授けられたのだと言いたいようだ。
「訳分かりませんが、違いますね。私はこれを自力で手に入れましたから」
「なら貴様は自身の力のみで宝竜を倒したとほざくか!」
「ええ、そうですね。」
「そんな、そんな事を信じられる訳が」
「貴方が信じるかどうかなんて興味もない。貴方の薄い常識で私を測るのは止めて下さい」
「き、貴様!」
メイリーは笑顔でそう告げる。すると遂に煽りの限界を突破したカルトは、剣を抜きメイリーに飛びかかってくるのだった。




