実践に勝る
メイリーは自身の感覚がどんどんと研ぎ澄まされていき、成長を肌で感じていた。相対する魔獣が次にどのように動き、両手に持った2本の剣をどのように動かせばいいかを、頭で考えずとも理解できてきていた。
この自身が急成長している感覚は、メイリーが暴風狼や雷虎と戦闘した時にも似た感覚を味わっている。流石にそれらほどではないが、魔法を使用していないメイリーでは『魔獣の巣』に出現する魔獣たちよりも実力は劣っていた。そのため戦い勝つたびに実力が向上していくのであった。
「やっぱり修行も大切だけど実践に勝る経験は無いね。これなら時々こういうのも加えようっと」
魔法使いとしてのメイリーの実力は大型魔獣にも比肩する。そのためそれを伸ばそうとするには一朝一夕では難しい。新しい魔法を習得するなど強くなる方法は存在するが、それを実力が上がったとは言えないとメイリーは考えていた。魔力制御など基礎的なことを地道に鍛えていかなければならないだろう。
しかし近接戦闘ではむしろ伸び代しかない状態のメイリーに今必要なのは、型にはまった道場剣法ではなく実践的な技を磨くことなのかもしれないと今回の件で思ったのだった。
そのため王都付近では度々、魔法使いの少女が両手に剣を携えて魔獣を相手取る、と言う奇妙な光景が見られることとなった。
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VRゲームが魔法などの学習のツールとして使われている反面、スポーツなどの練習には他と比較すればそれほど取り入れられていないのが現状である。勿論、反射神経や動体視力などの強化、反復練習やイメージトレーニングなどの用途でよく使われているが、ゲームであるため実際に体が鍛えられる訳ではない。そのため他と比較してそれほど熱心に取り入れられていないのだ。
(まあこれはまた別格だけど、1日でこんなに違うとやっぱりスポーツにももっと積極的にって思っちゃうな。まあ別にどうでもいいんだけど)
しかし芽依としては自身の変化からそれは勿体無いことだと感じる。ゲームの中に比べて芽依の身体能力はかなり低い。そのため成長率が高いということもあるだろうが、昨日までの動きとは明らかに異なっている。まるで体の動かし方のコツでも掴んだようであった。
芽依の場合、普通の人のようなゲームをして得た経験ではなく、実際に体験し実戦した生の経験である。そのためその変化が普通よりも大きいのだろう。しかしそれを差し引いてもVRゲームの有用性は計り知れないだろう。
(それとも私が知らないだけで、スポーツでも他のと同じくらい取り入れられているのかな?)
知識の多くがゲーム関連に占められている芽依であればあり得そうな話である。
そんな事を考えながら現在図書室で魔法について調べものをしている芽依だが、これも結局はゲームに関係することであるのだ。魔法が上達すればよりゲームを進めやすくなるのだから。
「それで今回芽依は何を調べてるの?特殊な魔法について?それとも空間魔法の秘術でも載ってるの?」
「…別にそういうのじゃない。それよりも静かにして。折角静かな場所に来たんだから」
また調べもの以外にも、魔法演舞で注目の的になってしまった芽依は、静かな図書室に逃げ込んだという目的もあった。ただそれはあまり意味をなしていなかった。今も芽依たちの会話に聞き耳を立てている生徒が何人もいるのだ。
「えー、別にいいでしょ」
「図書室では?」
「…おしゃべり厳禁。わかったよ。私も静かに本でも読んでる。その代わり何を調べてるかくらい教えてよ!」
凛の交換条件を受ける必要は無かったが、そうしないとずっと喋っていそうであったので、芽依は小声で一言だけ答えるのだった。
「魔力について」
それはこの現実世界ではなく、ゲーム内での魔法の源のことであった。




