近接戦闘の修行
神聖魔法の回復の方はまだできないが、元々回復手段はスキルで賄っているため必要ない。そして魔法は言わずもがなである。ならばメイリーの目下の欠点は近接戦闘ということになる。メイリーも魔法に比べれば劣るが、度々訓練を行っているのだが、素人の我流では限界がある。ただ転生にとっての特権、ボーナスタイムである幼児期から無理のない程度で鍛えていたメイリーの肉体的なレベルは結構なもので、冒険者にしてDからCランクの近接戦闘職と同等、魔法による強化を施せばBランクの猛者ともタメを張る。武術をしっかりと学べば魔法なしでも戦える戦士に成れる素材なのだ。
(とは言っても私の知り合いで剣術だったりを教えてくれそうな人って限られてるしな。ガンルーさんとかなら教えてくれそうだけど、あんまりだしな)
ガンルーが弱いという訳ではなく、貴族のお抱えの騎士が戦うことを想定しているのは、基本的に対人である。メイリーが相手にするのは魔獣のため教えて欲しい技術が多少異なるのだ。それでも独学よりはましだが気は進まない。こういった時こそ知り合いの冒険者に頼むのが良いのだが、残念ながら自身の飯の種を快く差し出してくれる心優しい冒険者に心当たりは皆無なので、これもまた難しいだろう。
(教わるあてもないから近接戦闘を諦めて魔法による遠距離特化にしても良いんだが。それだともしものとき危ない気がする。うーん)
独学の修行や誰かに師事を仰ぐのも難しいとなると、メイリーに残された手段は1つしか残っていなかった。
王都の近くに『魔獣の巣』と呼ばれるエリアが存在する。そこには冒険者のランクにしてFからDランク相当の魔獣が日夜闊歩している。ここは王都の駆け出しの冒険者たちが依頼のため訪れる場所である。一応危険地帯と呼んでも過言ではない場所に訪れた駆け出し冒険者たちは、そこで異常な光景を目にする。
その光景を作り出している少女の事を知っている者は、1つだけ疑問を抱き、知らない者は彼女を助けようとする。何故なら危険地帯に両手に1本ずつ剣を携えた年端もいかない少女がいるのだから。
「あのー、アレは止めなくて良いんですか?」
「止める?何を?」
「だってあの子。1人でこんな場所に!」
「…安心していい。あの子は私たち全員が束になっても敵わない子だから」
「へっ?」
「1つ気になるのは何で両手に剣なんて持っているのかだけど、まあ私たち程度が心配する存在じゃないよ」
ちょうど『魔獣の巣』にやって来ていた駆け出し冒険者と、その付き添いの先輩冒険者の会話が聞こえてくる。少女の事を知らない駆け出しは心配そうな声をあげるが、少女の正体を知っておりその凄さを何度か同伴した依頼で身に染みて理解している先輩冒険者は、無用な心配だと断じるのだった。
その後、2人の冒険者は駆け出し側がどうしても心配だと言うので少女に付いていき、自分よりも圧倒的に小さな存在が自身が苦戦して漸く勝てる相手の大群を相手に大立ち回り蹂躙する光景を見て、世の中の理不尽さを理解するのだった。




