神聖魔法の構造
神聖魔法とは何なのかを考えると色々と見えてくるものがある。前世の魔法理論とこの世界の魔法理論は多少異なるが、それでも似通った部分は多い。であるならば神聖魔法と言うのは少し胡散臭いだろう。しかしそうは言っても異世界だ。神様が普通に存在しそれらに貸し与えられた力が神聖魔法という可能性も無くはない。しかしそれでは神聖魔法とは神などの上位の存在と交信する魔法ということになる。
もしそのような魔法であるならば教会側は神聖魔法を大々的に宣伝するだろう。我々は神の御業を行使しているんだと。しかし現状そうなっていないと言うことはおそらく違うのだろう。
(そもそも神聖魔法は回復魔法の上位版って見方が一般的だし。そう考えると私の仮説もそう間違ってないかもな)
メイリーは神聖魔法とは回復魔法と呪いなどを解呪する魔法。2つの系統の魔法を一緒くたにした魔法だと考えていた。
(呪いを特別に考えすぎてたかもしれない。この世界の呪いが魔法の一種であるなら呪いの解呪とは魔法の書き換えってことだ)
しかしこれは現段階ではメイリーの推測に過ぎない。これを実証するには実際に呪いを解くしかない。呪いは特別なアイテム以外では神聖魔法でなくては解呪不可能とされているので、これでメイリーが解呪できれば、少なくとも神聖魔法の一端は解明できたことになるだろう。
そのための被験者は『下水処理場』の近隣の村に大勢存在した。元々そこまで住みやすい環境ではないのに、今回の氾濫で更に呪いを患う村人が増加したようであった。しかも都合が良いことに村人たちは、教会に神聖魔法をかけてもらうだけの御布施など支払える状況では無かった。このためメイリーが実験的に神聖魔法を試すことに納得してくれた者がいた。その者は今回の依頼で一緒になった魔法使いメルルの知人であった。
「それにしても本当に神聖魔法を使えるの?教会の秘術で各教会でも行使できる者は一握りとされているのに。それこそ『聖女』にしか扱えないとされてるのよ」
「この方法が本当に神聖魔法か分かりませんが。でも教会ってひと括りに言っても宗派の違いはあります。それでも各教会で神聖魔法が使われていると言うことは、やはり入信しなければ使えない魔法という訳では無い筈でしょう?」
「そう言われればそうですね」
教会の内部事情に興味は無い。メイリーの興味は神聖魔法にのみ傾いていた。
メルルの案内で訪れた家の中で寝ている患者は、痩せ細っていてかなり苦しそうであった。ひとまず『鑑定眼』で患者を調べてみると、確かに彼は低位の呪い『衰弱』を患っていた。
「今から解呪をします。よろしいですか?」
「あ、ああ。メルルの、知り合いさん。よろし、く頼むよ、」
頼まれたメイリーは早速解呪を試みることにした。
(魔法の書き換えをするには最初に掛かっている魔法の構造を探らなきゃならない。慣れてないと難しい。掻き消すならそこまで難しくないけど)
呪いがどんな物かまだ判明していない現状で、安易に呪いを掻き消すことはリスクがあると判断したメイリーは、呪いを無害な物に書き換えることを選ぶ。
作業は難航し、患者の前で魔力を操り始めてからかなりの時間が経過した。そして漸く呪いの構造を理解したメイリーは呪いを書き換えるための魔法を発動させる。
「『魔法よ改変し、彼に祝福を与えん』」
呪いの書き換えに成功する。早速『鑑定眼』で調べてみると確かに呪いは消えていた。しかしその代わりに彼には低位の祝福『壮健』がついていた。
(神聖魔法での解呪で逆に祝福がつくか。確かそんな噂があった気がするな。所謂バフとデバフってことか。ならおそらく呪いを掻き消しても悪影響は無さそうかな?)
ある程度、神聖魔法の構造も分かってきたメイリーは、その後他の村人たちを解呪して回るのであった。




