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そのまま、また悩み始めてしまった私は、両親が心配げに見ているのに気づき、
「ええと……ごめんなさい。少し、考え事を……」
「あまり悩みすぎないでね、かわいいシンディ。――さあ、ご飯の続きだ。せっかくの食事が冷めてしまうね」
そう言うと、お父さまは食事を再開した。
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食事が終わると、デザートがやってきた。
淡い黄色の、見たことのない……葡萄1粒くらいの大きさの果物が、3つほど浮かんだ、かわいらしいゼリーだった。
「お、ローティか。また、公爵ご夫妻が送って下さったのかな?」
「えぇ、そうよ。今年は、一段と美味しそうね!」
お母さまとお父さまは当たり前のように言っているが……え、ローティ? 何だこれは?
ああ、あと、それに……
「えっ、公爵……?」
口から零れた疑問に、お母さまが反応する。
「あら、シンディ。今までと同じで、お祖父様とお祖母様からよ」
お祖父様? お祖母様?
つまり、お母さまは、公爵家の娘ってこと……!?
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謎の果物ローティは、苺みたいな味で、実の所かなり美味しかった。
この世界の食べ物は、地球と同じものしか見たことがなかったから、未知の食材に出会ったのは初めてだ。
そして、それよりも……お母さまの生家であるサンディ家は、山岳地域にある公爵家らしい。
お母さまは、その三女だそうだ。
……公爵家ということは、もしかして、王家と繋がりがあるのではないだろうか?
つまり、シンディも、僅かではあるが王家の血を引く人間なのではーーそんな考えが頭をよぎった。
しかし、漫画ではそのことに一切触れられていない。
カスター家の火事の原因について、有力な推測……それすらもない。
関係ない? ある?
あるとしたら、少しだけ、火事の原因に近づくのではないか。
だって、漫画の世界だ。失火だとは誰も思わない。
これは、調べた方がいいかもしれない。
別に、大人たちだって、子供がルーツを知ろうとすることくらい、気にしないと思うから。
私が、このカスター家の歴史について勉強したいと申し出ると、お父さまは、……伯爵と言うよりは、いかにも子煩悩なパパ、という顔になる。
「これはこれは、シンディの本の虫がまた出てきたかな? 僕のかわいいシンディが勉強家なのは、レイチェル譲りなのかもしれないね」
なんと、惚気も入れてくるとは……エリック・カスター(37)、恐ろしい男である。
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お父さま付きの使用人が、書斎から何冊かの本を持ってきてくれた。
カスター家の歴史がまとまった本や、各貴族の大まかなデータ、(公表されている範囲の)家系図などなど。更に、お母さまから、サンディ家の歴史の本も借りてくれたという。
上質そうな素材でできたノートを開き、よいしょと椅子に腰かける。
机は広いから、本がいっぱいあっても大丈夫。ありがたい話だ。
まずは、カスター伯爵家の歴史から。
軍功のあった青年マーク・カスターが、トランバル伯に叙されたのが始まりだという(トランバル地方は、王都から遠いが小さくて肥沃な土地で、今はキール公爵領の一部である)。
バリバリの軍人だったマークと違い、子孫たちはだいたいが文官で、飢饉の対策や外交に手腕を発揮していった。大臣などをたくさん輩出するうちに、当時の当主アーネストが、王都に近い方がいいと、ここウィーラスに邸を置く許可を得たらしい。
(今は領地トランバルを返上した上で、改めて邸の土地の分だけ下賜された、領地を持たない『宮中伯』となっている。普段はただ単に『伯爵』と呼ばれるが……ちなみに、スローン家やカーター家も同様)
ところで、カスター家は、『宮中伯』である分邸はこぢんまりとしているが、かなり重用されている貴族である。
そんなわけで、公爵家レベルの家からもお輿入れーーお母さまのようにーーが時々ある。王族はさすがにないし、公爵家でも全ての家が王家の血を継いでいるわけではないので、一概には言えないが、カスター家にも王族の血が入っている可能性はある。
家系図を見たところ、王族の血を引いた人は入ってきていないようだ。
何と、カスター家の人間1人ひとり(養子や嫁・婿も含めて)のちょっとしたデータすら載っていた。
それを見ると、それらしい人もいたが、どうも違うようである。
「…………もしかしたら……」
今度は、お母さまの実家・サンディ公爵家の本を開く。サンディ家では、当主が変わるごとに書き直され、家系図も頻繁に更新されるという。
綴じ込まれた巨大な家系図のいちばん下、最新なのはお母さまたちの世代である。
お母さまの父親は、正妻の他に妾が2人いるみたいだ。すごい……
お母さまは正妻の第3子、末娘だ。
その正妻は、ライト侯爵の娘だそう。
はて、ライト侯爵……?
頭の中で、妙に何か引っかかる。
「ライト……ライト…………かあ」
何回か繰り返してみたが、気持ちは晴れない。
高校の英語の教科書に出てきた、キャラクターか何かだったろうか?
「……キャラクター? 」
思い出した。
『王国と炎』に出てきた、高慢ちきなボンボンだ。
漫画の随所で登場してきては「ボクはかのライト侯爵の跡継ぎさ!」「おっと、君はスローン伯爵家のポーリン嬢ではないか? ボクとお茶でもいかがかね?」とポーリンに絡む、ファンにはお馴染みのネタキャラである。最近の少女漫画にはなかなかいない役回りだが、作者が昭和の少女漫画のテンションを愛していたらしく、どこか懐かしいデフォルメされた容姿の令息だった。
何だアイツか、と本を放り投げかけて気がついた。
1度だけーー舞踏会の、モブがわちゃわちゃしているシーンのことだ。
ライトは、確かこんなことを言っていた。
「やあ、美しいお嬢さん、ボクは王家の血を引く由緒正しきライト侯爵の、次期当主。ボクと一緒に踊らない?」
こう声をかけて、女の子に引っ叩かれていたはずだ。当然、見事な星を目から出しながら。
王家の血って……あのアホが?
でも、ライト侯爵家という家は、当然ながら1つしかない。
本当に、ライト侯爵家には王家の血が入っているのだろうか?
年代ごとに、サンディ家の人間1人ひとりについて書かれたページを開く。
あった……正妻、つまり私の祖母である、クララについて。
簡単に、ライト家についての説明もなされていた。
『注)ライト侯爵家……16代王の妹婿のため創設された家に由来。グレース憂女伯の降嫁先』
グレース憂女伯? エドワード黒太子みたいな、ニックネームのようなものだろうか。
女伯なら、伯爵と同レベルの身分なのかな……だとしたら、降嫁という言い方はおかしい気もする。そもそも、この国では女性には爵位継承権はない。
色々おかしそうな雰囲気を醸し出している、グレース憂女伯。
本日2回めの違和感に、私はまたも頭を抱えるのであった。




