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短い眠りの中で、私は夢を見た。
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6時間めの授業が終わって、私はぐーっと腕を伸ばす。斜め前に座る友達の肩を叩いて、くだらないおしゃべりが始まって……
「そういえば、×××××がいつも言ってるあの漫画、何だっけ? 今朝、本屋に並んでたよー」
長い付き合いなのにちっともハマってくれない友達に言われ、私はニヤッと笑う。
「そうなんですよー、今日は『王国と炎』の12巻が発売されるんですよー。これを機に読んでみない? 全巻うちにあるから!」
「いやー、私、複雑な話はちょっと苦手なんだもん! 分かりやすい学園ものの方が好きだな。あ、そうそう、今度、実写化されるやつがあるからそれ読んでよー」
友達が挙げたのは、イケメン転校生と主人公、その幼なじみが繰り広げるラブコメを描いた、いわば王道の少女漫画だった。
「えー、『王国と炎』も面白いから!今、めっちゃいいとこなんだよ?」
なになに、と一応聞いてくれるのが、彼女のいいところ。私は気をよくして答える。
「王家の家系図が出てくるシーンがあったんだけど! そこにはやっぱり枝分かれした家とか人とか、どこに嫁いだとか、何て爵位をもらったとかも書いてあってね」
そーゆーのが難しいんだよね、と笑って、続きを促してくる友達。
「それで、どーしちゃうの?」
「その家系図の端っこに、結構昔の、グレース・ニコルっていう第17王女がいてさ。その人ね、実はあの人の家系図にも書いてあった名前だって……私、気づいちゃったの! つまり、あの子も王家の血が入ってるんだよ!」
「第17王女ってマジか……。で、あの人って誰なのさ?」
それは、と私はドヤ顔でタメを作る。
「それはね! ×××××、だよ!」
「え、誰だっけそれ……聞いたことはある気がする」
「ひどい!主要キャラよ?」
…………反応イマイチの友達に、私は嘆息するのだった。
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目を開けると、自室のベッドの上だった。誰か運んでくれたのかな……ごめんね。
さっきの夢は、もう思い出せなくなっていた。ぼんやりと、前世で高校に通っていたときのことだというのは覚えている。
私は、あの世界では既に故人。
だれかが悲しんでくれたかもしれないーーそう、よく話していたあの子とか、家族。もしかしたら、部活のみんなも多少はそうかもわからない。
……今度こそは、天寿を全うさせてもらいたいものだ。おばあちゃんになって、孫を甘やかすとか、やってみたい。
「そのためには、やっぱり火事を防がなきゃ」
決意を新たにしたものの……どうすればいいかは、よく分からないままだった。