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とりあえず椅子から立ち上がってみる。ベッド脇の姿見で改めて見てみると、シンディは11歳というだけあって結構小柄だ。細くてふわふわの黒髪は腰まで伸びていて、緑の瞳とマッチしている。
私は、どうやら原作通りの愛らしい少女のようだ。
「うーむ……」
腕組みをして首を傾げるが、……きっと何とかなるだろう。
どうやら、深く考えすぎない方がいいようだ。
だって、私は、シンディ・カスターであることに変わりはないのだから。
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結論から言うと、シンディの具合を心配したお母さまは、私にあまり話をさせてくれなかった。温かくて美味しいスープを、手ずから作ってくれたという。
今までも、シンディの具合が悪いと作ってくれていたことが、シンディの記憶の中から思い出された。……すごく、いいお母さんだ。
だから、シンディも優しく穏やかに育ったのかな?
私がスープを飲むのを、にこにこ見ているお母さまに、聞いてみた。
「お母さま、私、何か変ではありませんか?」
「あら……シンディ、まだ気分が悪いのかしら? 体が浮く感じがするの?」
「……大丈夫ですわ、スープもとっても美味しいです!」
よかった、と私と同じ緑の瞳を細めるお母さま。私もつられて笑うけれど、じわじわと気づく。
……そうだ、私たち、あと2年したら死んじゃうんだ。お母さまも。……
お父さまは、シンディの記憶の中でしか知らないが、子煩悩なパパらしい。娘が思春期を迎えたら、ちょっとウザいくらいのお父さん。外交の手腕を買われており、王様の信頼も厚いみたい。
せっかく生まれ変わって、こんな素敵な家族(前世の家族もよかったけれど)のところに来たのに。
あと2年、……もうすぐだ。
自分の命もろとも失ってしまうなんて、嫌だ。
大好きだった物語を変えてしまうのは嫌だけれどーーそれより、死ぬのはもっと嫌。
死を回避した後は、物語に干渉しないように静かに平和に暮らせさえすればいい。
……「シンディ、おかわりしたいの?」
いつのまにか、スープ皿は空になっていた。それを険しい顔で見つめていたようで、11歳の娘(食当たりで吐いたらしく空腹)に対しての母親の考えとしては、多分間違っていない。
「ありがとうございます、お母さま。頂きますわ!」
そして、私の返答も、娘として何らおかしくないはずだ。
少しして、運ばれてきた愛情と栄養たっぷりのスープの2杯目を前にして、私は心から微笑んだ。