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豹変


 「恵介君!!」


 朱里は、下駄箱で靴を履き替えていた恵介を呼び止める。


 「水嶋さん? どうしたの?」


 慶介は、普段あまり話した事が無い朱里に、突然自分の名前を呼ばれて少し驚く。


 朱里は、猿奈と話していた間に恵介との距離が開き、それを縮める為に、走り疲れて肩で息をしていた。


 「さっきの、十字架の事について、詳しく知りたいの」


 恵介が、昼頃にその話しをした時から、朱里は伝えたい言葉を入念に考えていた為、間を置かずに自然と言葉が出て来る。


 「十字架? ああ。ペンダントの事?」


 質問の意図や真意がよく分からない恵介は、具体的に内容を限定しようと模索する。


 「ううん。違うの。恵介君、十字架の意味について詳しく知らない……? 例えば、どんな意味があるのかとか」


 まだ少し抽選的だが、十字架自体の事を知りたい様子なのを、恵介は理解した。


 「うーん……って、あれ? 水嶋さんって、そーゆー系に興味あったっけ? なんか、その手の話を一方的にするのは、宗教に勧誘しているみたいで、あまり好きじゃないんだけどな……」


 尚も渋る恵介に、朱里は少し苛立ちを覚えた。


 「お願い!! 今知りたいの!! 私にとって……とても大切な事だから……」


 朱里の少し尋常では無い、真剣な表情と言葉が恵介にも伝わり、彼女が今知り得たい話をするべきだと、悟った。


 「OK。分かったよ。ここじゃなんだから、少し人気が少ない所に行こうか」


 コクリと頷き、朱里と恵介は人気が少ない校舎裏へと場所を移動した。


 「十字架ってさ、キリストとか教会とか、聖なる救いのシンボルのようなイメージがあるだろ? でも実は違うんだ」


 人気が少ない校舎裏に着いた恵介は、朱里に説明を始めた。


 「あくまでも、俺の認識だけど、十字架は全くの逆のイメージ。そもそも十字架とは、残酷な処刑方法としての意味もあるんだ」


 想像していたイメージとは違い、さりげなく恐ろしい単語が出てきて、朱里はゾッとした。


 「両手両足を、十字に組んだ木に大きな釘で打ち付け、激痛の中命尽きるまで張り付けにする。ある宗教の教えでは、呪われたシンボルとして、意味嫌われているんだ」


 「それ以外でも、さまざまな解釈があるけど、十字架を背負って生きていくって言葉があるだろ? その言葉通り、罪を犯した者は、その罪を死ぬまで背負い続けなければならない……という意味合いも大きい。昔のヨーロッパでは、罪人に十字架の刻印を刻んだりして、生涯を晒し者にしたと言われているし」

 

 「罪……」


 その言葉に、朱里は昨日の出来事を思い出す。


 あの女性は、何かに許しを請いていた。そして……その額には、今の自分と同じ十字架の紋章が刻まれていた。


 私の家族を生き返らせて欲しいと言う願いを叶える為、力をくれたあの女性……。


 あの人も、何かの罪を背負っているのだろうか……?


 「水嶋さん?」


 その言葉に朱里はハッとする。


 朱里が考えに耽っている間に、恵介は更に十字架の意味について話していたが、朱里は上の空だった。


 もう一度聞き返すのも失礼だと思い、質問の趣旨を変える。


 「額に、十字架の刻印を刻まれた有名な人物って……誰か居る?」


 「額に?」


 突拍子の無い事を当然言われ、恵介は目を丸くした。


 「うーん……誰か一人、女の人で居たような気がしたんだけど……ちょっと今は思い出せないな。思い出したら、また今度教えるよ」


 「うん。ごめんね……質問ばかりで」


 朱里が、一方的に自分の悩みを解決しようと、恵介を長い時間付き合わせてしまった事に詫びる。


 それと同時に、こんな自分に、これほどまでに話をしてくれた事にも感謝をする。


 「そうだ。これ」


 慶介が、鞄の中から一枚の薄い紙を取り出した。


 「これ、俺が行っている教会。もし、水嶋さんが何かそういった類の悩みがあるなら、気軽にここに行ってみると良いよ。きっと何か、水嶋さんの知りたい事を解決してくれる人が居るかもしれないし。あ、宗教の勧誘じゃないからね!! 何やら、相当悩んでいるみたいだからさ」


 彼なりの、精一杯の気持ちという事は分かっていた。


 「恵介君。ありがとう」


 本心から出た言葉だった。


 「じゃあ、俺はこれで」


 照れ隠しをしながら踵を返し、校舎裏から恵介は出ようとする。


 「恵介君」


 その後ろ背中を見て、朱里は思わず呼び止めた。


 「恵介君……どうして、逆十字のペンダントを作ったの?」


 その時……。一瞬恵介が、とても儚く……そして、どこか哀しそうな表情を浮かべた気がした。


 「いつか……話せる時が来たら、話すよ」


 そう言い残し、今度こそ彼は姿を消した。


 恵介の言われた言葉を整理して、朱里は帰路に着こうと校舎裏を出ようとした――。


 「朱里」


 その出先には猿奈が居た。


 先程別れを告げた猿奈が、突然目の前に現れた事によって、朱里は驚きを隠せない。


 「猿奈!? どうしたの……? 先に帰ったハズじゃ……」


 「朱里が変だから様子を見に来たの」


 猿奈は即答した。まるでその答えを予想していたかのように。


 「変って……私は、普通だよ?」


 朱里は先程の登校の時から、猿奈にずっと変と言われ続け、少し違和感を抱いていた。今朝の取り乱した様子は、確かに不自然なのかもしれない。


 しかし、こうも執拗に心配される要素はあっただろうか……?


 「朱里は変だよ」


 尚も、猿奈はその言葉を繰り返す……。


 その事が段々と朱里も不気味に思えてきた。


 「変って……何が!?」


 「だって――――」


 その時。猿奈の顔が……不気味に歪んだ。


 「昨日私が、朱里の家族を殺したのに」



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