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血を統べる吸血鬼  作者: 百式
3/5

休憩


 あれからいくらか経ち、見通しの良い場所で休憩をしている。

 保有魔素の少ない俺は、日に使える魔法に限りがあるため温存したかったのだが、緊急事態の為に魔法を行使した。魔素は十分な休息をとれば回復する。放てる魔法の上限はその時の体調に左右される為、今の俺はあと一発使えるかどうかといったところだ。

 奇襲の後、皆で反省を行った。第七部隊の槍使いと治癒師はセイとリアナと名乗った。――俺が名前を憶えていなかった為、自己紹介を一度した――。セイは茶色い頭髪を短く切り、後ろに流している。爽やかな好青年といったところだ。リアナは桃色の頭髪を側面で結んでいた。

 普通治癒師は隊列の後方、中衛と後衛の間に挟むのが定石だがシオンは休憩の言葉で気が緩み、持ち場を離れてリアナを置いていき、セイに至っては警戒を怠る始末。

 二人に気を引き締める様に説教をし、今に至る。

 各々が床に腰かけ、袋から保存食を取り出し食べている。

 この訓練は別に早いもの勝ちといったことはなく、期限以内にクリアすればいいだけのものだ。今回の訓練の期限は二日、時間はまだある。

 今後の方針を練っていると、シオンがこちらに向かってくる。


「ねえ、アルス」


「なんだ?」


「リアナさん、話があるって言ってるよ」


「……?」


 訝しんでいるとリアナがこちらへやってくる、顔を赤らめ、もじもじとしていた。


「あ、あの。アルス…さん」


「何?」


 俺はあまり人付き合いが上手ではない。シオンとは気兼ねなく話ができるが、他の人はと聞かれると思ったように話せない。丁度今の様に不機嫌な感じに聞こえてしまうのだ。元から口が悪いというのもあるが。

 リアナは一瞬、怯えたように体を震わせた。


「先ほどは、ありがとうございました」


「あ、ああ。気を引き締めろよ」


「はい」


 俺は心底驚いた。騎士団内で俺に礼を言うやつなどいない。皆一様に侮蔑の念をこちらに送るだけだ。冷遇され、蔑まされ、疎まれ、まるで俺の居場所などないような、そんな所だ。今更生き方を変えるつもりはない。どうにか力をつけ、この先も生きていくしかない。どこか、諦観にも似た感情が込みあがる。困惑でいっぱいだった頭が冷やされていった。

 冷静になると同時、シオンが飛び切りの笑顔でリアナに言った。


「ごめんねリアナさん。アルスって昔から口が悪くて。嫌いだから、とかではないの。だからあんまり気にしないでそういうやつなんだって思っていればいいんだよ。だから怖がらないで」


「は、はいッ!」


 リアナはまるで、年上のお姉さんと緊張しながらも必死に話しているような返事をした。


「これでも結構かわいいところあるんだよ?」


「へ、へぇー。た、例えば?」


「例えばねぇ…」


 目の前で悪魔の会話を繰り広げる二人にたまらず口を挟む。


「やめろッ!勝手に人の過去を話すなッ!テメェら悪魔かよッ!」


 きっと俺の頬は羞恥のあまり赤く染まっていただろう。それだけヤバイ過去をシオン(アクマ)は知っていた。一つと言わずに……。


 場に和やかな空気が流れる。すると、今まで聞いているだけだったセイが口を開いた。


「あっはは、お前にもそんな事があるんだな。ところでアルス、お前滅茶苦茶強いな!驚いたよ」


セイはリアクションを大げさにとる。裏表の無い反応だと感じた。


「そんな事は無い、魔素が少ないおかげで今日は魔法が使えそうにない。ここからはお前らにも頑張ってもらうぞ


「意外と謙虚だな。ま、任せろよ!お前の分まで働いてやるさ」


「ああ、期待している。シオンとリアナもな」


「ええ」


「はいっ!」


 真面目な顔で話していると唐突にセイがニヤつき始める。


「セイ、何をニヤついてんだ?」


「いやな、アルスよぉ魔法が使えないからってサボるなよ?でないと爆発系魔法(オマエノカコ)がさく裂するぜ?」


「勘弁してくれ……」



 この部隊に悪い奴はいない。そんな風に思った。




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