第4話 変態紳士の自分ルール
「本当にちょろいな。何体でも倒せる気がするぞ? これがA級……? A級ってどのくらいすごいんだろうか」
タスキは一通りA級のワーム族を戦闘不能にするとそこで倒れるA級ワーム族を横目に呟く。
「A級っていうのはその群れが一度現れれば国1つ容易く滅ぼせるレベルよ」
「あ……。そんなにすごいんですか……これ」
敬語で喋るのを忘れていたタスキは、それに気が付き慌てて口調を戻す。
「でもそれって個体は大した事ないんじゃないですか?」
「個体でだって小さな村の1つや2つから数日で人がいなくなるわ。たかが数体といえど、それを容易く倒せるあなた、何者なの?」
「別に大した者じゃないですよ。パンツの為ならどんな不可能だって可能にしてみせる。それだけです」
その言葉に半ば感動しながら声を震わせるレミリア。
「あなた……そこまで姫様の事を……?」
「……はい。姫様(の純白パンツ)を命賭けでも守りきってみせる所存です」
レミリアはこの時初めて出会ってしまった。自分の守りたいものを命を賭しても守り抜く強い信念を持つ男を。自分の理想の男を。
これが彼女の恋のスタートラインである事を彼女自身もまだ知らなかった。
彼のその強い信念が姫様へではなく、姫様の純白パンツへのものということも知る由もなかった。
×××
「ちなみに、だけど。モンスターの強さにはD〜A.S.Xまでのランクが設けられているの」
「Aはさっきの奴らくらいで、ではその上のSとXっていうのは?」
「SはAの群れが単体になったようなものね。1体で国を容易く滅ぼすわ。数こそ減るからトップクラスの優秀な騎士が揃えば何とかなるかもしれないという意味ではAよりも可愛いものよ。けど、逆に言えば……」
「そのクラスの騎士が数人集まらないとまず勝てない、と」
「そういうこと。単体での強さが上がるというのはA級と違って弱い騎士なんかじゃ足止めも出来ないって事になるわ」
「それは……出来ればお目にかかりたくないもんですな。そうなるとX級なんかは島を沈めちゃうとか? なんちって」
レミリアの顔が少し青ざめているのに気が付き、苦笑いをしながら冗談交じりに会話をX級へと流すタスキ。タスキの想像とは裏腹にレミリアの顔は少し明るさを取り戻す。
「そうね。Xは……おとぎ話かなんかだと私は思っているわ」
「へ……?」
「一応説明すると1体で文明そのものを崩壊させてしまうらしいわよ? けど、この300年近くその影すら見たものはいないし、子供を怖がらせるためのおとぎ話だと思ってるの」
「(なんだそのとんでもモンスターは。星よりも巨大ってか? 単体で文明崩壊って……スケールデカすぎってかファンタジー過ぎて想像もつかない)」
タスキが間の抜けた顔をしていると、隣を歩いていたレミリアが軽く跳ねるよりにタスキの前へと立ち少し腰を曲げ上目遣いをする。
「けど、あなたがいればXはともかくSが現れても心配ないと思うわ」
「なんですか。また俺が盾役ですか」
「ふふっ。どうかしら。けどちゃんと姫様を守りなさいよ?」
「レミリアさん認めてくれたんですか?」
「そんなわけないでしょ! 調子に乗るな、S級ワーム!」
「(あ、ランクが上がってる)」
そんなこれから魔王と称されるものの幹部のもとへと向かう一行とは思えない平和な会話をする2人。
×××
「それにしてもどれくらい歩いたの? まだ着かないの?」
「奇遇ですね、俺も同じ事思ってました」
「キャシャシャシャ! まったく、しぶとい奴らだぜぇ」
虫の鳴き声のような不愉快な笑い声にレミリアとタスキは声の正体を探す。
「どこの誰! 隠れてないで出てきなさい!」
「言われずとも俺様がこの手でお前らを始末するんだ……」
黒い体も辺りの少ない光を反射し光っている。その姿は比喩でもなんでもなく二足歩行のアリそのものであった。
「俺様はアント。魔王タウロス様の幹部ウルフ様の最高の部下だ」
「名前もアリかよ……」
「アリじゃねぇ! アントだ! アント様と呼べ、下等な人間が!」
「(うわ。明らかな小者臭。これが幹部の最高部下? 大丈夫なのか幹部様)」
現れた敵の器があまりにも小者な事の方が衝撃が強すぎたため、ほかの事が全く頭に入っていないタスキ。
「というか、なんで人間の言葉喋れるんですか、この虫。」
「あれはA級のワーム族よ。A級以上っていうのは例はあっても多種多様なのよ。あれは知能が発達したA級ワーム族ね。知能がある事で色んな部分に制限があるけど、頭を使った動きをする点では厄介よ」
「レミリアさんなら勝てたりします?」
「知能の高いA級は群れでの危険性は下がっても単体での危険性が上がるの。簡単には勝てないわ。いえ、私なんかじゃまず……」
最初とはうって変わり弱気なレミリアを気にせず周りから姿を現す大量のワーム族。
「こいつらは……?」
「C級ワーム族ね。何体いようが相手じゃないわ」
「そうですか。じゃあ、背中任せますよ」
「え! あなたどうする気?」
タスキは前に立つアントへと剣を向ける。
「たとえどんな状況でどんな理由があろうと。自分より女の子を危険な目に合わせる訳にはいかない。それがパンツを愛する者ってやつですよ」