第31話 ダブル・コア
先程よりも体が少し大きく、更に魔力も膨れあがったジャックの圧は対面しているパラドだけでなく、観客席にいる者達にも襲いかかっていた。
ジャックは五天の中では戦闘する事が多く、狂乱レベル1を目にしたり、その力を感じた事のある者は多かったが、どんな者も狂乱レベル1にすら耐えられずに終わってしまう。
つまりレベル2以降の狂乱を知るのは五天以外には存在しないのだ。
「お前はぁ…少しは面白ぇぇ。けどなぁ? 俺よりはぁ、確実に弱いぃ」
「それでも俺は負け────」
ジャックが地面を強く蹴り、パラドへと近付こうとした刹那。
五天を除く会場にいた全ての人間が奇妙な感覚に陥っていた。
それはその一瞬の時間を抜き取られたような奇妙な感覚、パラドはジャックが動き出そうとしたのを認識した次の瞬間には目の前に武器を構えるジャックが立っていた。
「なっ! (早いなんてレベルじゃねぇぞ)」
ジャックの初撃をなんとか回避し、再び距離をとるがパラドには余裕がない。
ジャックの攻撃に対して、防御と回避を続け反撃が出来てない状況は肉体以上にパラドの性格上、精神面の余裕が失われ続けている。
「何が起こったかわかんねぇんだろぉ? 教えてやるよ。狂乱レベル2、特殊歩法『時割り』って言ってだなぁ…。俺が地面を強く踏むとその際に発生する衝撃波で一定範囲の生き物の意識が一時的に飛ぶ。俺より遥かに弱い奴に限るがなぁ…」
「つまり俺はお前より弱いってか?」
「ああ。そういう事になるなぁ…諦めろ、凡人」
「認めねぇよ。認めねぇ! 俺より強いやつなんかいてたまるかぁ!」
パラドは無闇矢鱈に斬撃を飛ばし始める。
精神へのダメージが蓄積し、パラドに冷静な判断は不可能となっていた。
「くだらねぇ。つまんねぇなぁ…」
ジャックは軽い身のこなしでパラドが不規則的に飛ばし続ける斬撃を掻い潜りながらその距離を縮めていく。
パラドとの距離がほぼなくなると、パラドの見た目が変わっている事に気がつく。
パラドは思考停止をしているふりをして、ジャックを近付かせ0距離からの金砲を打ち込む作戦だったのだ。
「これでもくらえやぁ!」
「狂乱レベル3…」
パラドが渾身の金砲を放つと、ジャックはそれを回避すること無く直撃する。
会場が金色に包まれ、爆風にパラドは場外ギリギリまで押される。
「これなら、それなりのダメージくらいは…」
「ヒャハッ…ヒャハハハハッ! 狂乱レベル3、特殊体質『無邪鬼』。今のでダメージはくらったかもしんねぇ、けどなぁ。今の俺には全く感じねぇんだよぉ!」
狂乱レベル3、特殊体質『無邪鬼』。
痛覚の鈍化をし、ダメージを感じなくなる。
更に肉体的リミッターが外れ戦闘能力は飛躍的に上がる。
しかし、魔力への耐性が極度に下がり影響を受けやすくなる上、この状態の間魔力がなくなる。
攻撃魔法に武器で触れたりは出来ても相殺が出来ないため、すり抜けられ防ぐ事は不可能だ。
他の狂乱は魔力を消費し続け継続するのだが、レベル3に限ってはその所有時間は10分となっている。
それでもパラドは魔力が少なく、斬撃と金砲しかない。
つまり戦闘能力が圧倒的に高いジャックと、肉弾戦をする選択肢しかパラドにはないのだ。
「まだそんな奥の手残してやがったのか。クソがぁ」
「あぁ? これが俺の奥の手ぇ? 確かに今はこれが最大だが、こんなの俺の3割だぁ」
「こっちも奥の手隠してる余裕なんかねぇって事はよくわかった。見せてやるよ、俺の全力をなぁ!」
「!? この魔力の膨れ上がり方はおかしいわ。一体彼は何を?」
レミリアがパラドの魔力を見ながら戸惑っていると、その背後からガブリエルとアリアが現れる。
そして、アリアがレミリアの疑問に堪えるようにつぶやく。
「ダブル・コアよ」
「は? え、あなた。ってダブル・コアって…?」
「文字通りの力よ。パラドはそれを手に入れるためにとても頑張っていたわ。ふふ。あの時のパラドもすごく愛らしかったわ」
「文字通り? つまり…」
魔力の渦が収まり、そこから現れたパラドの姿は腰の辺りまで伸びた銀髪、赤い瞳、そして全身に現れる謎の模様。
タウロスやキャンサーのコアを体内に入れていた時とは比べ物にならない量と禍々しさの魔力。
そこに立っていたのはもはやなにか別の生き物だった。
「これが俺の全力、ダブル・コアだ。タウロスとキャンサーのコアを同時に体内に入れて攻撃と防御を手にした究極の形。俺はこれでお前を倒す」
「いいぜぇ! ちょっとは俺を楽しませろぉ! どっちが先に倒れるか…ヒャハッ…ヒャハハハハッ! 結果は見えてるけどなぁ!」
「ふんっ。何度いまの俺の金砲を耐えられるか見物だな」
「いいぜぇ。嬲り殺してやるよ」




