第20話 瀕死状態の暴走騎士
時は少し遡り、レミリア視点。
「お前は愚かだ。自分より強い者に単身で挑むなど」
「最近バカとよくいるから伝染っちゃったかもしれないわね。それでも私は、少しでもそのバカの役に立つ仲間でいたい」
ガランはその大きな体に、大きなハンマーを持っているとは思えないような想像を絶する速度でレミリアとの距離を埋める。
「|(こいつ…この図体でよくそんなに早く…っ!)氷魔法! 氷の守壁」
「弱い…」
レミリアの作り出した氷の壁をいとも容易く砕き、その勢いを抑えぬままレミリアの腹部へとハンマーを押し込む。
レミリアは宙高く打ち上げられ、5メートルほど先へと背中から叩きつけられる。
「かはっ…うっ。|(今ので息がしにくく…嘘でしょ。こんなあっさり死ぬの? そこまで力に差はなかったはず)」
「哀れだな。魔力では俺を勝ってもほかの部分で俺に勝るものが何一つない。その唯一勝っている魔力ですら大きな差ではない。それでは俺に勝てるはずもないだろう」
ガランは落ちたその場から動けなくなっているレミリアへと近づき、ハンマーを両手で持ち上げ高く振り上げる。
「終わりだ」
「|(こんなに呆気なく死んじゃうだ…こんな死に方するなら…どうせ今日死ぬなら、あいつに)」
レミリアが諦めかけて目を強く閉じた時、タスキと下着共鳴により繋がりタスキの状態がレミリアに伝わる。
自分なんかより遥かにボロボロだが、それでも諦めようとしないタスキ。
その気持ちを受け取り、振り下ろされるハンマーを間一髪の距離で回避する。
そして、その体制のまま手だけを突き出し魔法を唱える。
「氷魔法! 氷爆!」
「なっ!」
ダメージも最低限狙ったが最大の狙いは、その魔法により発生する冷気によりガランの視界を奪い距離を取ることだ。
そして、真っ向勝負をしても勝ち目がないと判断したレミリアは近くの木の陰へと身を潜める。
しかし、打ちどころが悪かったのか鈍痛が響き今にも意識を失いそうになる。
「|(いいわよ。もう眠っていなさい)」
「え…?誰…うっ…」
レミリアの隠れている木をすぐに特定し、その木ごとレミリアを吹き飛ばそうとハンマーを薙ぎ払うガラン。
しかし、そのハンマーは木を粉砕し何者かに受け止められる。
その影から現れたのはハンマーを片手で受け止め、ビクリとも動かないレミリアの姿だった。
「なんだお前。先程までとは魔力も戦闘力も桁違いじゃないか!」
「うーん。20…22%ってところかしら? まあ初めてならこんなもんよね」
まるで別人のように変わったレミリアの威圧感に一歩後ろへ退くガランを無視し、自分の体を見回しながらブツブツと呟くレミリア。
戦闘力や魔力こそ豹変したものの姿は特に変化がなく、瞳が赤く染まっているのと左目の少し下あたりに見慣れない模様が浮かび上がっている程度だ。
「それに…これじゃ気も失っちゃうわね、肋骨が何本か折れてるわ」
レミリアは自分へと氷魔法を放つと電気ショックを受けたように体が大きな衝撃を受けたような反応をする。
なんと豹変したレミリアは自身の氷魔法を体内に放ち折れた肋骨を自力で治したのだ。
「少し荒治療だけど、まあ一方的にいじめるだけだし充分よね」
「なんだ。なんなんだお前は!」
「何って…あなたがいたぶっていたレミリア・アズリエルよ? どうしたのそんなに怖がって」
ガランに向けられたその笑顔はまさに悪魔のように不気味なものでガランは逃げ出そうとする。
しかし、背を向け走り出すとすぐに「ダーメっ」と城よりも高く厚い氷の壁を作り出され逃げ道奪われる。
「ほらほら、そんなに怖がらなくていいのよ? たっぷり可愛がってあげるんだから」
「来るな…! 来るなァ! なんなんだお前は、この悪魔がァ!」
ガランは何も考えずにハンマーを振り回すが、ハンマーの行く先に小さいが頑丈な氷の板を作り出し、すべてを弾きながら少しずつ近づくレミリア。
そして、手の届く距離に近付くとまずは左腕を優しく掴み、そのまま本来曲がらないような方向へと粘土を扱うように曲げる。
あまりに自然で、そして一瞬の事にガランはなんの反応も起こさなかったが数秒経ち何が起きたかを理解すると悲痛な叫びをあげた。
「あら? そんなに痛かったかしら。まだ腕の一本だけよ?」
そんなやり取りが数分続き、ガランは左腕、右手の指三本、肋骨を一本折られたところで完全に気を失っていた。
「あら、もう終わり? 人間をいじめたのは初めてだけど上出来だったんじゃないかしら? 思ったよりは楽しめたわ。…っと、次のお客さんね…」
レミリアは自分の背後から近付いてくる大きな魔力に気付き振り返ると、そこにはジーパン、タンクトップに一枚革ジャンを羽織った筋肉質な男が立っていた。
「おいおい。なんだこらァ? 別のもんに用事があって来てみりゃヤバそうなのがいんじゃねぇか」
「次はあなたで楽しみましょう、そうしましょう」
「流石にどんなにやばいとはいえ、女に手は出せねぇしな…これで終わってくれよ」
その言葉の後、男は一歩も動く事なくレミリアは気を失い倒れていた。




