第17話 女騎士の巨大な敵
「すいません。道をお尋ねしても?」
黒いローブに身を包み顔はフードで隠れていてよく見えないが、声色から女性であることが判別出来る者に声をかけられたタスキ。
「あ、えーと。レミリア、頼んだ」
「え、あ、わかったわ。それでどこまででしょうか?」
「レグレッドの村という所を探しているのですが、行き方がわからず」
「レグレッドですか…西の門から出たら道なりですけど、かなり距離あるので十分な準備をしてから行くことをオススメします」
レミリアはその女性を適切な宿泊施設や、レグレッドへ向かうに当たって揃えておきたいものなどを一通り案内し、タスキと城へと戻る。
「レグレッドの村ってどんな所なんだ?」
「何もないところね。しいて言えば私たちの国と協定を結んでるディランス王国の傘下になっているくらいよ」
「ふーん。そうなのか」
「タウロスの一件が済んだらディランス王国に挨拶へ行くし、覚えておくといいわ。特にディランス王国には五天と呼ばれる強い人たちがいるわ。もちろん私なんかじゃ手も足も出ないくらいに強い、彼らが手を取り合えれば魔王だって多少は苦でも倒せると思うんだけどね」
ディランス王国の五天は不仲で有名で、異世界から来たタスキには全くわからないことではないが、その周辺の者でそれを知らない者はいない。
各々の目的があり、戦い方、その立場としての意識があるため度々ぶつかり合う事で有名だ。
「とりあえず今日はもう休みなさい。ごめんなさい、付き合わせて」
「別にいいけど? 結構楽しかったしな。また行こうぜ」
「…っ。そのうちね!」
×××
「朝、か」
タスキは着替えて、武器を準備し数分間のストレッチを終え廊下へと踏み出す。
そこにはミカエル、レミリア、ヒメリアが待っていた。
「遅いし! 女の子待たせるとかモテないでしょ」
「よく眠れたみたいね、今日負けても言い訳出来ないわね」
「タスキ様、無理はなさらずに行きましょう。前みたいなのはもう…嫌です」
「姫様だけ随分辛気臭い顔してますね。これから俺らは負け戦に行くんじゃないんですよ? 悪い魔王を退治しに行くんです。負けたりしませんよ!」
いつにも増して自信満々な態度のタスキに、全員の気合が入り直す。
タスキ本人も含め全員が魔王よりもパラドと鉢合わせば、そちらと大きな戦いになるのでは、という事を不安にしながら国を後にする。
「それで何か考えでもあるの? 絶対あのパラドって奴はあんたに突っかかるわよ?」
「考えなんてねぇよ? 前に勝ったんだしまた勝てるだろ。それに案外俺にビビってくれたり」
「それだけは絶対ないし。あれはうちの予想だとタスキをライバル視して殺しに来るか、逆恨みで殺しに来るかだし」
ミカエルの予想を否定できる人がおらず、全員黙り込むと空気が急に重くなる。
その空気をどうにかするようにヒメリアは一度休憩でも、と道の端で小さなお弁当を並べる。
「美味いなこれ」
「よく普通に食べれるわよね…あんたのそういうところ本当に尊敬するわ…」
「それで? 本当にどうするつもりなの!」
「パラドか? なんとかなる気がするんだよ。それにちょっと秘策があるしな…と、それより丁度いいし全員パンツ貸してくれよ」
「よくシレッと頼めるよね! 本当にサイテー!」
すぐさま文句を言うミカエルも含め、全員どのみちそうしなきゃタスキが使い物にならない事を考慮し、渋々脱ぎたてのパンツを手渡す。
「今度ボロボロにしたら弁償よ?」
「肝に銘じておくよ」
この前までのウルフの道を辿っているタスキ達はこの前と違い魔物が一切現れない事を少し不振に思い始める。
この前のウルフとの戦いでは全員で全速力で進みアントをなぎ払い、途中モスキートに阻まれたというのに。
「どうして魔物が一匹も現れないんだ? むしろ怪しいだろ」
「あー、それならパラドがやったし。もう先に着いてる感じっぽいし。そっか! タスキは魔力感じられないんだったね! パラドは魔力がないっぽいからわからないけど、城のところにガブリエルの魔力があるから間違いないよ」
「そ、そうなのか。何かの罠かと思ったぜ…って城の前に誰かいるぞ」
崩れ果てた城の前に黒い鎧に身を包んだ男が立っていた。
巨大なハンマーを構え、誰かを待ち構えているようにも伺える。
「あれ多分俺らを待ってるよな。俺ら以外待つような奴いないよな」
「そこにいるのはわかっている。俺はガラン。パラドの仲間としてこれより先にお前らを通さないため待ち伏せていた!」
「うわー。めっちゃ律儀だなあいつ。パラドもあれくらい律儀になってくれっと助かるのに」
「タスキ達は先に行って。あれは私が相手するわ」
レミリアが物陰から現れ、剣を抜き構える。
タスキ達はレミリアの決意に水を差す事はせず、脇から城へと侵入しようとする。
それを阻害させないようにレミリアが氷の壁を作り出した。
「あなたは強いわ。ただタスキより弱い。だから無駄な時間稼ぎはさせない! 私が、相手するわ」
「…お前を始末してから終えばいい。そうしよう」