第16話 パンツ狂者の異世界決意
「負けは弱者だけの特権だろ…? つまり俺にはそんな権利ねぇんだよ!」
「いい加減諦めてくれよ、お前も十分に弱いだろ」
タスキの拳に合わせてパラドも、タスキの胴を強く殴る。
パラドは更に森の奥へ突き飛ばされ、その際気を失ったのか今までのおぞましい魔力が消え、手元にカニの形をした金属のようなものが落ちる。
タスキはその攻撃でビクリとも動かないがタスキの背後にものすごい風圧が発生した事からパラドの渾身の一撃も、それなりに高い威力だったのが伺えた。
「あれでも止まらないって本当に人間じゃないでしょあれ!」
「ちょっと待って! うち、タスキも動いてない気がするんだけど」
「いや、そんなはず…けど、さっきまでのすごい魔力が。もしかして彼!」
「立ったまま気を失ってる、とか? そんなマジ? 信じられないし…」
先程までの重々しいプレッシャーを放つ魔力がタスキから消え、全く微動だにせず立ち尽くすタスキの姿。
ガブリエルとミカエルの予想通りタスキは立ったまま、目を開いたまま完全に気を失っているのだ。
アント戦での癒えきっていない疲れ、ウルフ戦でのダメージと消耗、そしてそのままパラドとの命懸けのぶつかり合い、それはタスキの限界点などとっくに超えていたのだ。
「じゃ、とりあえず今日はこれで終わりだね」
「次はタウロスのとこで会うし」
「そうだねー。大体居場所はわかったよ」
「うん」
×××
まだ見慣れない天井。
だが、何度か目にした天井。
青い髪の美少女が視界に映る。
「ああ、これ返さないと。ごめん。だいぶボロボロ…に…?」
タスキは縞模様のパンツを手に取り渡そうとすると抱きしめられたことに驚いた。
少し痛みを感じる程に強く抱きしめられタスキはどうしたらいいのかわからなくなっている。
「死んだかと思って不安だった」
「え? は…? 俺が? そんなわけ…」
「無茶ばっかして! あんたは本当にいつ死ぬかわかったもんじゃないのよ! そのくせ毎回毎回ヘラヘラヘラヘラと…」
「ああ…なんだその? ごめんなさい?」
「ごめんなさいじゃないわよ! 殺すわよ?」
「結局今死ぬんじゃねぇかよ!」
そんな風にレミリアとタスキで大声で言い合いをしていると扉の外が何やら騒がしくなる。
タスキの声を聞きつけたミカエルとヒメリアが大慌てで駆けつけたのだ。
「目が覚めたの!」
「タスキ様…うぅ…」
「いや、そんなみんな大袈裟な…」
「立ったまま気絶してたんだよ! うち達の想像を絶する消耗だったって事だし! それにあれからもう3日だし!」
「3日…? 3日も寝てたのか俺」
タスキはパラドを城の外へと押し出した辺りから記憶が曖昧らしく、ミカエルやレミリアがその後について説明をする。
とてつもない魔力を放っていた事、パラドを一方的にいたぶっていた事、そしてその後立ったまま気絶をし今に至るまでの経緯を。
「そんな凄まじい事が…全然覚えてないぞ」
「無意識でしかまだあの魔力は出せないって事か〜。あれが使いこなせるならうち的には嬉しかったんだけど」
「まあ可能性があるくらいで今はいいだろ? それとタウロスの居場所がわかったってどこなんだ」
「あの城の地下だし。あんたの魔力に反応したのか一瞬だけ地下から魔王と酷似した魔力を感じたんだ。だから多分あそこにタウロスがいるんだと思う」
タスキは少し考え込み、明日に出発をする事を提案する。
各々の準備の為、そしてもう少し休息を取り万全な状態でないとパラドに勝てないと悟ったからだ。
一時解散をするが、すぐにレミリアが戻ってくる。
「さっき渡そうとしてたものがあるでしょ」
「…? あ、ああ。そうだったな。だいぶボロボロになって本当に悪いんだけど、これありがとうな」
「…もう、遅いわバカ」
レミリアはタスキの差し出すボロボロになったパンツを受け取り優しく微笑む。
だが、「ボロボロにしたお詫びに付き合いなさい」とタスキはレミリアと街まで買い物に出ていた。
「あんたは、やっぱりまた戦うの?」
「誰と? タウロスか? まあそれが最初の目的でもあるしな」
「違うわよ。あのパラドってやつ…」
「パラドか…戦う事になるだろうな。過去に何があったか知らないがあの強さへの異様な執着もそうだが、あいつの中では多分俺に負けたという意識があると思う。だから顔を合わせればあいつは俺を殺しにかかってくるんじゃないか?」
「もう、いいんじゃないの?」
レミリアのその言葉はどこか苦しそうでタスキはレミリアの方へとすぐさま顔を向ける。
俯いており表情がわからないが、どこか思いつめているような気がするレミリアの姿にタスキは立ち止まり、それに合わせてレミリアも立ち止まる。
「えーと、つまり何がおっしゃりたいのでしょうか」
「そのパラドって奴がタウロスを倒してくれるならそれでいいでしょ! この世界に来た理由はその為かもしれない…しれないけど! 他の人がやってくれるって言うんならもうそんな危ない真似する必要…」
タスキはレミリアの言葉を遮るように強く肩を掴む。
「それで、他の人がやってくれるようだから俺は引き下がりますって人間が、レミリアや姫様…王様が認めた人間なのか? もう魔王退治なんかどうでもいいんだ。だけどな、認めてもらったならそれ相応の俺でいなきゃならない、俺はそう思ってる。だから俺はパラドともタウロスとも戦わなきゃなんねぇんだ」
「…っ。本当に…なんでこんな時ばっかカッコいいのよ。あんたは」